だいたい数年に一度ぐらいで、心の底からすばらしい作品だったと思えるアニメが出てくることがあって、『ケムリクサ』はまさしくそのように実感できるものだった。
よかったところはふたつある。
ひとつは、物語としてのテーマが明確であること。
もうひとつは、謎の多い初期状態から小出しに事態や経緯が明かされ、最後に全貌が示されるという構成が巧みだったこと。
テーマの方は全編で一貫して表現されている。過酷な環境下、互いを気にかけながら生き延びようとするなかで自分の「好きなもの」を見つけ出す、ということ。キャラクターたちそれぞれの「好きなもの」が順番に示されつつ、ひとりだけそれを持っていなかった主人公が最後に自分の「好き」を見つけ出すまでの過程。
一方、物語展開の方も構造としてわかりやすい。「島」をひとつずつ渡っていく「旅」の形式を取りながら、さっぱりわからない状況が少しずつ明らかになっていく……という流れで進む。展開の仕方にはとても訴求力があり、見ている方としては毎回、先行きに対して考察をおこなわずにはいられなくて、断片的に明かされたものがあれば伏線を思い出して照合し、そして最後には全体がきれいに組み合わさってかたちを成すのを確認するというように、たえずわくわくし続けられた。
これらの「謎」「設定」「状況」が、そのまま作品の雰囲気をかたちづくってもいる。
風景は現実の世界のようなのに、キャラクターの生物学的特徴や置かれた状況はどうも異質。なぜ彼らはこのような旅をしているのか、どこか当てがあるのか、いったいどこに行き着くことになるのか……。そうした謎がずっと視聴者の関心を引きつけ続けるフックになっているんだけど、同時に、これらの全体が組み合わさって醸し出されるどうにも独特な雰囲気がある。
たとえば、それぞれ際立つ特徴を持つ姉妹たち。出自や理由はわからないけど、はっきり分かれた能力特性・性格。それが外見やことばづかいにも反映していて、つまり設定とキャラクターデザインがかたく結びついている。また、見覚えある現実世界の風景が無人の廃墟となって広がるなかで、敵の襲来をかいくぐりながらも、生命線である水が徐々に枯渇していくという危機と絶望。そんな状況でも思いやりを持って旅する登場人物たちがなんともいとおしくて。……そうしたすべてが、いかにも「たつき作品」と言いたくなる個性・魅力につながっている。
そしてついに失われた記憶が取り戻されると、いままで謎だった状況・設定が——完全にすべてではないとはいえ、物語を理解するには充分な程度で——判明するに至る。
するとそこにあったのは、さらにせつない物語。
そして、主人公たちが直面する窮地と、この事態に至るまでの過去の因縁とをともに乗り越えるものこそが、「好きを貫くこと」である、というようにテーマへ結びついて。
——とにかくきれいで、何の過不足も見当たらない作品。
その他の雑感
- 全体を通して心情描写がしっかりしてると感じた。
(Ep.5 での、引け目を感じてたのが役に立ってたことがわかってうれしくて泣き出すりつ、など)
- 3Dアニメだからか、全体的にゲームっぽい雰囲気。「島」も、ゲーム内のステージをひとつずつクリアしていく感じがある。
- Ep.7 で、希望が示された直後に絶望に変わるという、持ち上げて落とす展開。これがものすごく視聴者の感情を揺さぶってきて、物語効果をよく計算してつくられてる。
ここがちょうど全体話数の半分に当たる位置で、旅の目的が「水(生存)」から「根本的解決」へ変わる契機にもなっている。つまり、消極性から積極性への転換。
- いろいろ予想をめぐらしてたけどぜんぜん当たらなかった……。
- 分裂は意図的な結果だったということ。
→事故かと思ってた。というか、人格の分裂ってなかなかハード哲学な設定だと思う。 - この世界は現実世界の滅亡後というより何らかのバーチャル世界かなと思ってたので、それは当たらずとも遠からずといったところだったけど、実際は「船のなかで3Dプリントで復元された世界」という、もっとぶっとんだ設定。
- ノートの内容が出てから「さいしょのひと」がキーだという意識は持っていたけど、あんなせつない物語があったとは。しかもそれをたった一話で描ききるのもすごい。
- りりの最後のことば・願いは、「好きに」生きて、というもの。(これはワカバの最後のことばでもある)
各キャラクターはそれぞれ自分の「好き」を追求しているのに、りんだけは見つけられずにいた。でも自分のやりたいことが何かをずっと自問しつづける。
というのはつまり、りりの願いがりんのなかで生きていて、駆動要素になっていたということなのだろう。
結果、りんは最終話にてついに「好き」を手に入れることになる。だから、りりは救われなかったのか?と問われたとき、しかし少なくともりりの「願い」は果たされた、と言うことはできる。