::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

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 バルガス=リョサ “緑の家”





“La casa verde”
 1966
 Mario Vargas Llosa
 ISBN:4102453016


緑の家 (新潮文庫)

緑の家 (新潮文庫)






 ペルーの密林地帯と海岸地方の町ピウラを舞台に繰り広げられる群像劇。複数のプロットが錯綜して展開する小説。
 この小説は、読むのにとても労力を要する。難解な小説と言ってもいいのだが、ストーリー自体が理解し難いとか思弁的な意味で難解というわけではなく、それらの点に関してはむしろ平易といってもいいぐらいだ。この書が求める労力は、読む行為それ自体に対してのもの。そもそもどのような出来事が生じているのかということが把握しづらい書き方がされている。
 読解を難しくしているのは、まず第一に入り組んだプロット配置のせいなのだけど、回想の描き方に関する特異な叙述スタイルにも理由がある。というのは、個別のパートの内部で過去の回想が挿入されるとき、話法や段落変化による明示もないままにそれらがまったく同列に連なっていくからだ。どこからが回想の人物のセリフであるかの区別がまったくつかない。精細に状況を考えていけばその区別がつくところもあるし、場面によっては最後まで明確に判断できないところもある。
 それに加えて、多彩で膨大な登場人物たち。彼らの紡ぐ5つか6つのプロットが、時代も微妙に異なるままに入れ替わって現れ、「全体」なるものの手軽な理解を寄せ付けない。

 この小説は、何が何でも登場人物表を自分でつくりながら読んでいかなければならない。人物リストだけでは足りなくて、プロット表も書き留めていく必要がある。メモを取りながら読んでいくこと。この小説を読むということには、そこまでが不可欠な一環として含められると思う。迷宮へ挑む種類のRPGで、マッピングという作業が必須であるのと同じようなもの。そしてメモを見ながら、この人物がこの人物と関係していて、この事件がここにつながるのか……というように断片的に理解が進んでいくことが、楽しい。つまりこの小説は文字通り迷宮であって、読むということはその道をすべてつなげることだ。ミステリー小説での謎解きとも違っていて、すべてを読み終わったときにひとつのきれいな結論やテーマが見出されるわけでもなく、ただ単に経路が踏破されたこと、その事実が体験として心地よく残る。そしてそれは自分が書いていったメモの完成というかたちで、具体的に現れる。
 小説を読むということには、人物に感情移入したり、思考を喚起させられたり、テーマや心情を読み取ろうとしたり……そういった読み方だけではなくて、ぜんぜん別種の読み方もあるということをこの小説は示している。メモを取って人物やプロット間の関連性を整理しながら、全体像を自分のなかに構築していくこと。読み手を能動的に参加させる小説だと思う。




see also : バルガス=リョサ “フリアとシナリオライターhttp://d.hatena.ne.jp/LJU/20091101/p1




(以下ネタバレ含むメモ)




登場人物


 密林

リトゥーマ ··· 治安警備隊の軍曹。
アドリアンニエベス ··· 船頭。
シプリアーノ中尉 ··· リトゥーマが尊敬する人物。海岸地方(ピウラ?)の出身?
ロベルト・デルガド伍長 ··· ボルハ守備隊。後に軍曹に。
アルテミオ・キローガ大尉 ··· ボルハ守備隊。
中尉 ··· シプリアーノとはまた別の中尉。
〈チビ チキート〉 ··· 治安警備隊員。
〈デブ ペサード〉 ··· 治安警備隊員。ウアンバチャーノ。ラリータの新しい夫。
〈金髪 ルビオ〉 ··· 治安警備隊員。
〈クロ オスクーロ〉 ··· 治安警備隊員。カルデナス伍長。リマでリトゥーマによくしてくれた。黒人とインディオの混血。

ボニファシア ··· ウラクサのフムのもとで育てられ、レアテギによってニエバの伝道所に連れてこられた。その後リトゥーマと結婚しピウラへ。
尼僧院長 ··· サンタ・マリーア・デ・ニエバの伝道所の長。
シスター・パトロシニオ ··· 算数担当。
シスター・アンヘリカ
シスター・グリセルダ ··· 調理場担当。
シスター・アンヘーラ ··· 図工と家庭科の担当。
シスター・レオノール
シスター・アスンシオン ··· 吊されたフムを助けるように言った。
ベナンシオ神父

フシーア ··· 日系人
アキリーノ ··· 老人。フシーアの協力者であり友人。
ラリータ ··· フシーアのもとで働く。後にフシーアの妻となる。その後ニエベスの妻になる。その後ウアンバチャーノの妻になる。
フム ··· ウラクサのアグアルナ族。
パンターチャ ··· フシーアの部下。薬物中毒者。
アキリーノ ··· ニエベスとラリータのいちばん上の子。老人アキリーノの名を取った。
アメリア ··· アキリーノ(子)の妻。
シャプラ族の女 ··· フシーアの愛人。後にパンターチャに預けられる。

フリオ・レアテギ ··· ゴムの密輸によって大金持ちになる。ファビオの前にサンタ・マリーア・デ・ニエバの行政官だった。
ファビオ・クエスタ ··· レアテギの部下。サンタ・マリーア・デ・ニエバの行政官。かつてはホテルで働いていた。
マヌエル・アギラ ··· 町長。
ペドロ・エスカビーノ ··· アグアルナ族の以前の取引相手。
アレバロ・ベンサス
ポルティーリョ ··· レアテギの懐刀。イキートスの弁護士。



ラリータの母親
通訳 ··· パレーデスとは別の通訳?
ビラーノ ··· 兵隊のひとり。
アグアルナ族のポーター
パレーデス ··· 呪術師。以前レアテギたちの通訳だった。
パレーデスの妻
ピンタード ··· 仮病のニエベスの代わりとなった船頭。
イノホーサ ··· 兵隊のひとり。
ビランシオ神父

ボニーノ・ペレスとテオフィロカーニャス ··· ウアンビサ族を煽動しウラクサを引っ掻き回した白人二人組。


 ピウラ

リトゥーマ
ホセフィノ・ローハス
ホセ ··· レオン兄弟
エル・モノ ··· レオン兄弟

ボニファシア ··· ラ・セルバティカ。リトゥーマの妻としてピウラに来た。後に〈緑の家〉の娼婦となる。
ラ・チュンガ ··· チュンギータ。〈緑の家〉のオーナー。アンセルモとアントニアの娘。
アンヘリカ・メルセーデス ··· 最初の〈緑の家〉で料理を担当していた? 料理店の店主。

アンセルモ ··· かつて〈緑の家〉を建てた。ハープ弾き。目が見えなくなる。
メルチョール・エスピノーサ ··· アンセルモを泊めた老人。
アントニア ··· 孤児。キローガ夫妻に育てられた。強盗団の襲撃で生き残る。後にアンセルモとの間に娘を産む。
キローガ夫妻 ··· ピウラの農場主。ドン・ロベルトとドーニャ・ルシーア。強盗団に殺される。
フアナ・バウラ ··· キローガ夫妻のところで働いていた洗濯女。アントニアを引き取る。
エル・ホーベン・アレハンドロ ··· 楽団のひとり。ギター。
ボーラス ··· 楽団のひとり。シンバル。元トラックの運転手。



チャピロ・セミナリオ ··· 富豪。
ペドロ・セバーリョス ··· 医師。
エウセビオ・ロメーロ ··· スペイン人。店を持つ。
サトゥルニーナ ··· カタカオスの帽子職人。
カルロス・ローハス ··· ランチの船頭。ホセフィノの父親。
ハシント ··· 〈ラ・エストレーリャ・デル・ノルテ〉のボーイ。
リーラ ··· 密林にさえ行かなければ、リトゥーマと結婚していたかもしれない相手。
エルモーヘネス・レアンドロの奥さん
パトロシニオ・ナーヤ ··· ドン・アンセルモとラ・チュンガを下宿させた。
オルテンシア ··· ラ・チュンガの〈緑の家〉の女。
アマポーラ ··· ラ・チュンガの〈緑の家〉の女。
リータ ··· ラ・チュンガの〈緑の家〉の女。
マリベル ··· ラ・チュンガの〈緑の家〉の女。
サンドラ ··· ラ・チュンガの〈緑の家〉の女。
マリポーサ ··· アンセルモの〈緑の家〉の女。
ルシエルナガ ··· アンセルモの〈緑の家〉の女。
ラニータ ··· アンセルモの〈緑の家〉の女。
フロール ··· アンセルモの〈緑の家〉の女。
アレーセ ··· 町一番の学者。
ルビオ神父
ドーニャ・サントス ··· 産婆?

セミナリオ ··· 農場主。リトゥーマと諍いを起こし、ロシアン・ルーレットによる勝負をおこなう。チャピロ・セミナリオの甥。

ガルシーア神父
ドミティーラ・ヤーラ ··· マンガチェリーアの老婆。





プロット


 ピウラの歴史 [ピウラ]

 アンセルモと〈緑の家〉の物語。
p43  〈緑の家〉ができるまでのピウラ。
p75  アンセルモがピウラにやってくる。
p112 アンセルモが〈緑の家〉を建て始める。
p147 最初の〈緑の家〉の誕生。
p208 キローガ夫妻に育てられた孤児のアントニアが、強盗団の襲撃で生き残る。
p247 フアナ・バウラに引き取られたアントニアが行方不明になる。
p502 アンセルモとアントニア。
p542 アンセルモとアントニア。
p579 妊娠するアントニア。
p283 アンセルモがフアナ・バウラに、アントニアが自分のところで暮らしていたこと、そして死んでしまったことを告白する。
p337 〈緑の家〉が燃える。
p374 アンセルモとアントニアの娘であるラ・チュンガが、アンセルモのもとからフアナ・バウラのもとへ。
p417 楽団誕生の経緯。
p450 ラ・チュンガが新たな〈緑の家〉で父アンセルモを雇うようになる。


 フシーアの物語 [密林]

 密林でしたたかに生き延びるフシーア。協力者フム:レアテギ(ゴム関連の揉め事)、ボニファシア(養女)に関連。船頭ニエベス:レアテギ(船頭・通訳)、ボニファシア(リトゥーマとの仲人)に関連。
p36  フシーアが脱獄した頃のこと。
p67  フシーアがファビオからレアテギの金を掠め取る。
p102 レアテギの下で密輸をしていたフシーアがラリータと知り合い、ウチャマーラへ逃げた経緯。
p139 ラリータをレアテギのもとに残すフシーア。しかし結局ラリータはフシーアを追っていく。
p199 レアテギのゴム商売について。
p235 ラリータに誘惑されるニエベス
p273 フシーアとラリータとインディオの女たち。シャプラ族の女。
p329 フシーアたち、島に住み着き始める。
p365 島でアキリーノを待つフシーアたち。狂乱するパンターチャ。
p394 盗賊たちを捉えるために島に踏み込む守備隊たち。でもパンターチャ以外誰もいない。
p406 ラリータの出産。
p436 尋問されるパンターチャ。
p445 フムを誘惑するラリータ。
p468 ムラート族の集落を襲うフシーアとウアンビサ族たち。フムが島からいなくなる。
p493 ときどき島からいなくなっていたフムは、ニエバの町に行って警備隊にゴムを返せと談判に行っていた。/ 悪化するフシーアの足。
p531 アキリーノにサン・パブロへ連れて行かれる途中のフシーア。/ フムに手引きされてサンティアーゴへ出発するニエベス
p568 ニエベスとラリータが逃げてしまった。
p606 ラリータのその後。
p626 ラリータのその後。子供たちと、新しい夫。


 フムとレアテギ [サンタ・マリーア・デ・ニエバ、ウラクサ] 

 デルガド伍長の里帰りをきっかけとして、ゴム取引をめぐるアグアルナ族とレアテギ一派が大きく揉める。
p48  ロベルト・デルガド伍長がバグアへの里帰りを願い出る。
p118 バグアに出発するデルガド伍長。
p159 ウラクサにて、アグアルナ族のものを盗んだデルガド伍長たちが、襲撃を受ける。ニエベス、フシーアに遭遇し助けられる。

p81  ニエバにて、レアテギ一派が、「二人組」に入れ知恵されたアグアルナ族が自分たちにゴムを売らなくなった話をしている。ふたつの場面の合成?
p212 ウラクサにて、対峙するアグアルナ族とレアテギたち。フムの両脚にしがみついてすすり泣くボニファシア。
p251 アグアルナ族に襲われたデルガド伍長がレアテギを連れてウラクサのフムのもとへ。レアテギの目的は、彼らがゴムを自分たちに売らなくなったことの解明。アグアルナ族とレアテギのゴムをめぐるトラブルの経緯。フムに育てられた?ボニファシア。
p285 引き続き、ウラクサのフムとレアテギ一行。ボニファシアをニエバへ連れて行くレアテギ。
p300 サンタ・マリーア・デ・ニエバでの、フムとレアテギ関連の込み入ったシーン。
p598 レアテギに名を付けられるボニファシア。レアテギは木に吊されたフムをウラクサに帰らせる。
p172 サンタ・マリーア・デ・ニエバ広場のカピローナの木。レアテギが尼僧院長に、伝道所の生徒を女中にもらいたいと頼む。その候補のひとりがボニファシア。レアテギが4年前にウラクサから連れて来た子。結局レアテギは違う子の方を連れて行くことに。


 リトゥーマとボニファシア [サンタ・マリーア・デ・ニエバ→ピウラ]

 ボニファシアが修道院の生徒たちを逃がす。→リトゥーマとボニファシアの結婚。
p8   シスターと治安警備隊員たちがチカイスへ行き、子供たちを連れて帰る。
p29  ボニファシアが修道院の生徒たちをひとり残らず逃がす。
p59  詰問されるボニファシア。
p94  ボニファシアが少女を逃がした経緯。
p128 引き続き、女の子を逃がしたことで詰問されるボニファシア。木に吊されたフムの話。
p188 逃げ出した生徒たちを捜索する治安警備隊員たち。ニエベスが軍曹と仲良くなり始める。ボニファシアはニエベスのもとに引き取られている。
p224 ラリータがリトゥーマとボニファシアをくっつけようとする。見つかった生徒たちを連れ戻しに行けとの命が下る。
p265 リトゥーマとボニファシア。
p317 ボニファシアの所在が守備隊に知れてしまう。
p355 ボニファシアがアキリーノに結婚式の服用の布地をせびる。
p480 リトゥーマとボニファシアの結婚。
p520 ニエベスに逃げるよう説得するリトゥーマ。
p560 ピウラへと出発するリトゥーマとボニファシア。
p510 ピウラに馴染めない新妻ボニファシア。ボニファシアに接近し始めるホセフィノ。


 セミナリオ事件 [ピウラ]

 リトゥーマは、治安警備隊員となってボニファシアと結婚しピウラに戻ってから、セミナリオ事件のためにリマの刑務所に護送された。その間にボニファシアはホセフィノと接近。リトゥーマの?子供を堕胎し、〈緑の家〉の娼婦となった。その後、リトゥーマが帰還。
p343 セミナリオ事件が語られ始める。
p381 セミナリオ事件の経緯の続き。
p425 引き続き、セミナリオ事件の経緯の続き。
p457 セミナリオのロシアン・ルーレット。

p551 リトゥーマが護送されたあとのボニファシアとホセフィノ。
p636 ラ・セルバティカの堕胎。


 リトゥーマの帰還 [ピウラ]

p51  リトゥーマが帰ってくる。
p87  リトゥーマと再会。ボニファシアのために乾杯。
p122 リトゥーマが、自分のいない間にボニファシアが〈緑の家〉の娼婦になっていたことを聞かされる。
p163 セミナリオの件以後の経緯。ホセフィノはスリャーナに、レオン兄弟はチュルカーナ山に逃げた。リトゥーマはリマで刑務所に入っていた。ボニファシアは行方不明だった。子供は生まれなかった。
p216 ラ・チュンガの〈緑の家〉を訪れる4人。
p257 リトゥーマとボニファシアの再会。
p290 ホセフィノを殴るリトゥーマとレオン兄弟。
p586 ホセフィノとボニファシア。
p615 アンセルモの危篤。















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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell