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 イーガン “端役”



“Bit Players”
 2014
 Greg Egan





 短編。SFマガジン2014年7月号収載。
 地球の重力が東向きに変化してしまったという〈大災厄〉により崩壊してしまった世界。
 目覚めたばかりの主人公が、重力がいったいどのように働いているか、といったことなどを理論的に考察し始めるところが『白熱光』を彷彿とさせる。だからまたあのようなハードSF路線なのかなと思っていると、唐突に世界の正体が告げられて、まったく別の方向へ話が進んでいく。



(ほぼ冒頭といってもいい7ページ目で明らかになることではあるけれども、一応、以下は核心部に触れた内容)



1.
 ゲストをもてなすためのAIということでまず想起するのは、飛浩隆の『数値海岸』。
 『数値海岸』のAIたちは、その出自上、物語にまみれ先天的に運命を背負わされてしまってるような存在だけど、『端役』のキャラクターたちはもっと自由意志を享受してて、露骨に反抗的。そもそも仮想世界内キャラクターとして創造されているはずなのに、役柄に徹することなく自由に思考し、現実世界の情報も持ち、自分がいる場所が仮想世界であることも認識できている…… というのがなぜ可能なのかについてきちんと理由が言及(推測)されているのが良かった。(イーガンはこういうところに隙がない。)


2.
 物理法則を解明しようという冒頭での議論のくだりは、仮想世界だということが明らかになってしまったあとではセルフ・パロディのようにも見える。

「あなたが生きやすくするためよ」

「賢い十歳の子どもなら、みんなこの世界の正体を五分で見破れる」

 だれかが奇抜な新世界を作りだそうとしたが、現実の世界の仕組みをほとんどなにも知らなかったので、思いつけたのは仕掛けと矛盾のごった煮が精いっぱいだった、という感じがする。


 ……このあたりはすごいよなー。
 セルフ・パロディというか、イーガンのスタイルを安易に真似る者(そんな者が実際いるのかはともかく)への先回りしたディスのようだ……。


3.
 世界の正体に気付いたあとは、世界に反抗していく展開となる。
 汎用ゲーム・エンジンによる基本的物理法則演算と個別に与えられた世界設定との不一致を利用し、創造者を出し抜こうとするキャラクターたち。
 イーガンのこういう “被造物が創造者の軛を逃れ、上回ってしまう” というテーマがいつもけっこうわくわくする。『クリスタルの夜』とか『順列都市』とか。

 もし自分がゲーム内存在だったらどうするか。そんな簡単にゲーム内法則から逃れる方法なんてあるのだろうか。
 これは何も自分がゲーム内キャラクターになってしまう必要はなくて、「プレイヤーの立場としてゲーム法則を凌駕することが可能か」という問いでも同じことだと思うんだけど、たぶんむかしのシンプルすぎるゲームだと難しくて、MMORPGとかメタバースとかのようなレベルでの自由度が効くゲームだったら何かやりようがあるような気がする。
 たとえば汎用資材ブロックのようなものがあって、ある程度の物理法則があって、チューリング・マシンを構築することができれば。計算機さえ手に入れてしまえば、時間をかければどんな演算だってできるはずなので、シミュレーション能力を手に入れることができる。つまり、世界内世界を手に入れることができる。……っていうのがひとつの「脱出手段」になり得るんじゃないかなー。(これは実際、「塵理論」でやったことに近いと思う。)
 そういう意味で、「創造行為」っていうのはいつもことごとく至高だと思ってる。それは世界内世界の創造でもいいし、あるいはテクストによっても可能なことかもしれないし。










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―Angela Mitchell