::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

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CupcakKe “Eden” (2018)



Eden [Explicit]






 シカゴ出身のラッパー。今年初めに出した 3rdアルバム “Ephorize” で高い評価を受け、それからほとんど間をおかず同じ年にこのアルバムをリリースすることとなった。
 下ネタまみれのリリックでキワモノっぽくありつつも、ラップスキルの高さと、意外にコンシャスな面も共存しているというところが特徴。女性ラッパーの新鋭として今年注目を集めている。
 そのラップはマンブルと対極にあるような力強いもので、自信に満ちている。トラックもこのラップをうまく効かせるものになっている。ラップの強さはまちがいないんだけど、必ずしもそれだけにとどまらず、よく聴くとけっこう細かくエフェクトが施されていて、ラップをより強調するようにエディティングがうまく作用している。
 Jlinのジューク/フットワークもトラックとして合いそうだと思った。Jlinもシカゴ近辺だけどキャラやスタイルはまったく違うので接点はなさそう。でも音楽的にはうまく組み合わさると思う。



 ヒップホップにおける女性ラッパーのあり方というのは、このジャンルにずっとまとわりついているミソジニスティックな傾向と分かちがたく関係している。その代表例が Lil' Kim で、強固な男性優位世界のなかで女性に与えられる固定イメージをあえて使用した…と評されている。
 そうした先駆たちと比べると CupcakKe は、もっと自由な立ち位置でラップをおこなっていると見られているようだ。実際、CupcakKeは Cheryl Keyes による女性ラッパーの四類型 “Queen Mother” “Fly Girl” “Sista with Attitude” “Lesbian” というどれにも当てはまっていないと思う。
 同じ “bitch” という言葉でも、Lil' Kim の語感と CupcakKe の語感とはだいぶ違う。下ネタも、CupcakKe の場合はもう過剰すぎてむしろギャグっぽくもなっている。だいたい名義自体が “bukkake” から来ているらしいし……。

 思ったのは、全体的に渡辺直美と似たものを感じるということ。風貌や体型にもちょっと近いところがあるんだけど、キワモノとコンシャスのバランス、「男性性を意識した女性性」からの距離の置き方という点で。
 渡辺直美って、デビュー時からするとネタ的な受け取られ方からストレートな受け取られ方へ移行してきていると思うのだが(特に女性から、あるいは海外から)、行き着いたキャラクター像に CupcakKe と重なるところがある。
 たとえば体重や体型に対する意識。渡辺直美の場合、ワシントンポストの記事In super-skinny Japan, Naomi Watanabe is chubby and proud” - The Washington Postでよくまとめられているけど、CupcakKe も 2nd “Queen Elizabitch” の “Biggie Smalls" で「体型至上主義」的な考え方を斥ける似たような内容のラップをしている。

“I could be thin or overweight, won't bother me.”
“I love every inch of my body. Don't compare me to shawty.”

 アイドルとかセクシー・アイコンというより、もっと親近感をもってファンから見られているタイプだというところも共通する。


 ヒップホップのひとつの特徴として、「セルフリスペクト」というものがある。男性ラッパーの場合これがマチズモと表裏一体で、虚勢的な面も混ざりつつ成立してるものであるところ、女性ラッパーでは違ったかたちで表れてきたと思う。CupcakKe も女性ラッパーの系譜にありつつ、渡辺直美的な自由さの上でセルフリスペクトが成り立っている。
 その自由のひとつの表れが CupcakKe の場合は過激な下ネタではあるのだが、そこにすべてが尽くされるわけではない。まあ CupcakKe を聞くとどうしてもまず下ネタに注意がいくのは仕方がない。直接的な単語もあるしメタファでくるんだ単語もあるけれど、とにかく下品ではある。SNSでのひとこと紹介文なんかも、脱力するようなフレーズが掲げられてたり。
 ただ、それだけにはおさまってなくて、コンシャスなラップもしているのが CupcakKe のおもしろいところ。社会的マイノリティへの視線、あるいは自分の過去を露呈するような部分など。
 ラストトラック “A.U.T.I.S.M” はタイトルの通り自閉症に対するリリックなんだけど、ここでのフックは自身のスタンスのセルフリスペクト的な表明にもなっていて、アルバム全体にとって明確なメッセージになっていると思う。

“A unique-thinking individual strongly matters.”




CupcakKe
Information
  Birth name  Elizabeth Eden Harris
  OriginChicago, US
  Born1997
  Years active  2012 -
 
Links
  Officialhttp://www.cupcakke.com/
    YouTube  https://www.youtube.com/user/CupcakKeFisno
    Twitterhttps://twitter.com/CupcakKe_rapper/
    Instagram  https://www.instagram.com/cupcakkeafreakk/
  LabelSelf-released

ASIN:B07K37CF1Y







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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell