ビートに伴うノイズの力というものを示したのが、前のアルバム “Immunity” の大きな功績だった。5年ぶりにリリースされたこのアルバム “Singularity” も同じ延長上にある。
パルス、破砕音、グリッチといったノイズ要素は、それ自体が主役の位置にあるわけではないけれど、情景を構築する上で欠かせない役割を果たしている。ベースドラムの4/4ビートが全体を引っ張っていく一方で、まとわりつくグリッチ・ノイズはリズムを微少に区切り、複雑な細部を生み出している。
リズムにおける「微少性」のようなものに関連しているという意味ではグルーヴという考え方に通じるものもあるけれど、根本的なところで異なる。溜めが生むオーガニックな揺らぎで一定の拍からの極微のずれを扱うのがグルーヴだとすると、ここでのリズムはあくまでもリジッド。大きな軸ははっきりした4/4ビートだけど、細かく覗き込んでいくとどこまでも分割された断片が現れてくるというようなかたちでの微少性。
ノイズといっても制御不能の混沌ではない。雑多で偶発的なものを秩序の中に整頓して配列したというような感じがある。局所的にはどこまでもディテールがあって、でも全体は整序されている。
Jon Hopkins のサウンドを語るとき、メロディとビートの融合とか “blissfulness” といった側面が外せないところだけど、飼い馴らされたノイズとも言うべき細部のテクスチャーも決定的に重要な特徴だと思う。
前半の4曲は特にフロア志向。このパートの締めくくりとなるような M-4 “Emerald Rush” は10分以上に及ぶもので、“Immunity” での “Open Eye Signal” に匹敵するような昂揚に満ちている。
後半はピアノ主体でアンビエントに寄った曲が続きながら、M-8でふたたびひとつのクライマックスとなるトラックが現れる。この “Luminous Beings” もやはり12分近くある長い曲。静かに始まりつつも次第に情景を切り替えていき、味わうべき局面が次々に立ち現れて、流れと変化、抑制から盛り上がりへという展開があり――つまりは非常に物語的。
M-4 や M-8 のような長大な曲を弛まずにまとめ切るには、叙情的・叙景的な「描写」の力とそれらの展開という「構成」の力という両面を特に備えていなければならず、この2曲の完成度からも、前作からさらに一段階の進化を遂げたことが見て取れる。
Jon Hopkins
Information | |
Current Location | London, UK |
Born | 1979 |
Years active | 2001 - |
Links | |
Official | http://www.jonhopkins.co.uk/ |
YouTube | https://www.youtube.com/user/JonHopkinsVEVO |
https://twitter.com/Jon_Hopkins_ | |
Label | Domino http://www.dominorecordco.com/artists/jon-hopkins/ |