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“劇場版SHIROBAKO”






“劇場版SHIROBAKO
 監督 : 水島努 脚本:横手美智子
 2020




 テレビシリーズから4年後の話。
 SHIROBAKOの映画版はムサニが映画をつくる話になるんだろうな、と思ってたけど、その通りの内容。
 だけど、物語開始時点の状況がこんなに厳しいというのは予想外だった。
 元請をやれてない会社になってることよりも、前作の登場人物がことごとく離散状態みたいになってるところの方がショックで。アニメ業界ってそういう流動性があるものなのかもしれないけれども……。
 とにかくテレビシリーズ最初のときよりもずっと厳しい状況。それは会議室での放送作品視聴人数の露骨な差に表れている。こうした対比は他にもあって、あらすじ説明のあとの本編開始時、また社用車カーレースになると思いきやエンジンが停まってしまうという象徴的な描写とか。あるいは、ラジオから流れる曲の「仕方ない」とか「みんないなくなった」とかの歌詞も、前作での『えくそだすっ!』OP曲と比べて明らかに不穏だ。そして追い討ちを加えるのが『三女2』の惨憺たる姿。
 この段階では、単にちょっと案件に恵まれてないタイミングとか、たまたま人が減ってるのかな、ぐらいに思う余地がまだあって、このぐらいが業界的に現実的な描写なのかも……みたいに考えていたら、そもそもこうした状況になってしまった原因である「タイマス事変」というのが思ったよりずっとヘビーだった。SHIROBAKOって業界を美化・理想化してるみたいにも言われてたけど、「タイマス事変」に関しては異常に現実的なシビアさがある。

 これは「ハッピーエンドで終わった物語」のその後の物語。ひとたびきれいに終わったように見えても、現実の世界では当然また生活・仕事が続いていくし、どんなときもずっと好調のままのはずなんてない。とはいえここまでの落差は衝撃的。単純に時間が経って登場人物たちがさまざまな境遇にいるよ、程度のものになるかと思ってた……。
 ただ、このどん底も物語としての布石なので、その後、前作の登場人物たちが再結集し、幾多の苦難を乗り越えて、ギリギリの納品で作品の完成に至る──という流れになるのも予想通り、というか王道の展開。
 こうやって毎回大団円に達しつつも再び落下してまた這い上がって……という繰り返し、それこそがアニメ制作なんだ、ということなのだろうか。いや、そのように繰り返していくために、たとえ落下しても毎回這い上がっていこう、ということをメッセージとして強く示している。

 ひとつの映画として見たとき、かなり駆け足ではあるものの、密度は高い。
 1クールかけてやってもよかったような話だけど、どん底からの上昇というのは2時間程度に納めた方がちょうどいいのかも。
 それにしても、この長さのなかに前作の登場人物をほとんど網羅して登場させて(名前だけの人物もいたが)、大なり小なり見せ場や悩みとその克服を描くというのは、構成が非常に効率的にできている。
 劇場版であらためて思ったのは、SHIROBAKOは、たくさん出てくる登場人物たちの時間経過・人生の推移がおもしろいということ。そういう作品は、息の長いシリーズになっていく可能性を持っている。またさらに5年後、10年後、というように、続編がつくられていきそう。現実の社会やアニメ業界の変化に合わせながら。



 挿入されるファンタジー

 展開に変化をつける要素として、二回出てくるミュージカル部分と、和服でのバトル、そして最後の映画内映画のクライマックスシーンがあり、それなりの尺とエネルギーとが費やされている。前作で言えば、映画内映画のシーンは『えくそだすっ!』のスタンピード、ミュージカルは『アンデスチャッキー』、和服バトルは夜鷹書房に乗り込むところに相当する。
 SHIROBAKOって、《「アニメをつくる」ということを描くアニメ》なわけだけど、ところどころ出てくるこうしたファンタジー的シーンが、つくってるアニメ内容と作品内の現実世界との境界が揺らぐ局面になっている。そうした虚構横断の契機を司るのがミムジー&ロロであって、彼らの機能はこの劇場版でも果たされている。ロロとミムジーは宮森あおいの内面的会話に関わるキャラクターでもあるけれど、別に主人公の未熟性を表す存在でもなく、作品制作者と作品内部をつなげるための不可欠な媒介として、今後シリーズが続いても同じような役割で登場すると思う。


 光と影の演出

 前作でもキャラクター演出で光と影がうまく使われていた。(23話で電話を受ける坂木しずかのシーンなど)
 劇場版でも、特に序盤の厳しい状況では光と影の象徴的な演出が多用されている。光がどちらに差していて影がどちらの側に横たわっているか、というところがはっきり意味を持っている。(たとえば丸川(元)社長のところを出て帰路につく宮森あおいのシーンなど)


 つくり直しの決定

 クライマックスで、つくり直しの具体的なプロセスをあえて描かなかったのは、そういう作業的ドタバタの話はもうさんざんやったからか。今回はつくり直しの決定そのものに焦点を当てた感がある。会議での各キャラの台詞が重要であって、それでこの映画のクライマックスには充分であるということなのだろう。テレビシリーズ2話「あるぴんはいます!」の最後をなぞるようなシーンにもなっている。





SHIROBAKO 1〜12話 : https://lju.hatenablog.com/entry/20150111/p1
SHIROBAKO 13〜24話 : https://lju.hatenablog.com/entry/20150412/p1

オフィシャル : http://shirobako-movie.com/
IMDb : https://www.imdb.com/title/tt8346438/






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell