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N・K・ジェミシン “オベリスクの門”

“The Obelisk Gate”
 2016
 N. K. Jemisin
 ISBN:448878402X




 三部作の物語は、だいたい第二巻が最もおもしろいものである……ということを、このところ読んだいくつかの小説から感じている。
 今まだ第三巻まで読み切っていない作品も含んだ雑駁な印象なので、とりたてて断言したいほどでもないのだけど、第二巻で話が加速し第一巻よりも多くのことが明らかになって、でもまだすべての謎は解決していない──そういう段階こそがいちばんおもしろい。逆に言うと、そういう展開に成功した作品だけが、三部作という長大な物語であっても評価を獲得し生き残る、という面もあるかもしれない。

 《破壊された地球》と呼ばれるトリロジーの第二巻であるこの『オベリスクの門』も、「おもしろい第二巻」の例に入っている。
 このトリロジーは、巨大地殻変動が頻発する惑星を舞台としている。人類は長い災厄期間に適応するための社会形態を築き、これまで人口激減を繰り返しながらもかろうじて絶滅をまぬがれ生き抜いてきた。なかでも特筆すべきは、地殻の運動を制御可能な〈オロジェン〉という者たち。彼らの特殊能力は、人々に重宝されつつ同時に恐れられていた。そんなオロジェンたちがこの物語の主要な登場人物となる。

 第一巻『第五の季節』は、設定に慣れるまでかなり読みづらかったけれど、途中から急激に読み手を引き込むつくりだった。
 第二巻は、邦訳刊行のブランクが長かったこともあり、前作の内容をよく思い出せないままなんとなく読み始めた。第二巻を読むにあたり最低限思い出しておくべきことは、「重要な主人公はひとりだけである」という点だけでよいので、第一巻の複雑な時系列や人物名を記憶からよみがえらせる必要性はそれほどない。もっとも、第二巻では「主人公」はひとり増え、基本的にふたつの視点が交互に入れ替わりながら話が進展する。


 この巻では、物語世界の構図が概ねはっきりしてくる。
 何度となく襲来する大変動が惑星にもともとあった事象ではないということ。原因があって、ある方法によって修復すれば、災厄を終わらせられるかもしれないこと。すなわちそれがこの物語のゴールとなる。

 世界設定の重要な位置を占めるオロジェンの能力については、いまのところ明確な科学的説明が与えられておらず、ただ魔法のように見える。この巻では実際、作中で「魔法」と称されるようにもなるのだが、一方で完全に説明がつかないものでもなさそうで、〈オベリスク〉という人為的構造物とそのネットワークによって理屈付けが用意されている片鱗が見え始める。物語の向かう目標とも絡んで、〈石喰い〉や〈オロジェン〉といった謎の存在が生まれた所以も少しずつわかり始めてきている。
 映像化すると派手になりそうな個所が多々あった。というか、映像性をかなり意識した描写が多いと思う。視覚ではなく「地覚」と呼ばれる超常的な感覚が、視覚のアナロジーで表現されている。マイクロスケールから惑星規模のスケールまで一体につながる感覚と制御のダイナミクス。

 この巻からは、次なる最終巻で達成が目指されるミッションを把握することができる。オロジェンが互いのネットワークによってオベリスクの門をつくり上げ、大変動の根源的原因を解決し、有史以来の抑圧を終わらせる──そのような希望的ビジョン。そしてそれが第二巻を上回るスペクタクルで展開されるだろうこともこの時点の読み手は思い描くことができる。
 第一巻以上の刺激を持って読者を引き込み、最終巻での展望を示して期待を高めるということ。『オベリスクの門』では、トリロジーの中間巻が持つべき機能が模範例のごとく果たされている。

 






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