社会学とは何か。
世間では、時事批評をおこなうテレビのコメンテーターたちが「社会学者」として見られ、そのイメージが強く流布している。しかし彼らのいわば「コメンテーター社会学」は、実際の専門社会学とはかけ離れている。
では、社会学とは何か。どうやれば社会学をやったと言えるのか。
社会学のやり方には、たとえば物理学や経済学のように基礎理論として共有されるものがない。本書は「何をしたら社会学をやったと言えるのか」という方法・やり方を筆者の視点から整理したもの。
社会学の対象は自然科学の対象とは異なり、分析者が用いる概念が社会を生きる人々の意味づけの実践に依拠し、そして新たな概念が対象の理解の仕方を変えてしまうという特徴がある(ループ効果)。そのような対象を分析する際のスタンスは「人々が知らない機能を暴き出す」というものにはならないはずだが、ではどうやって分析すればよいのか。
これに対して本書が提示するのが等価機能主義による方法ということになる。
テーマ自体は明快だし、語り口は平易だけど、内容は結構難しかった……。
社会学とは
- まず、社会学とは、
- 社会問題とみなされうる事柄を、社会の成員が用いるカテゴリーや理由に着目しつつ、記述・分析し、社会問題の他なる解決法を指し示していく経験的科学である。
- 社会学のおこなう社会分析の基本
- 社会学者は、分析の対象とする社会問題の「単位」と「全体」を、
- 人々のカテゴリー・行為タイプ運用から摘出するのと同時に、
- その運用が依拠している準拠問題を明示化しなくてはならない。そして、
- そうした相互行為のタイプ化は人々の実践(トークン)の観察から得られ、かつ実践により修正の可能性に開かれている。
- 経験科学としての社会学の固有性
- 社会学はどのようなやり方(方法論的な基軸)を用いるのか。
- 社会学はいかなる意味で科学的であるか。(演繹的正当化と経験的実証性だけを科学と捉えるのは狭くとりすぎている)
- これらに対して本書で提示するのが「等価機能主義」
機能的説明
- 科学には機能的説明と因果的説明というふたつの説明様式がある。
- 機能的説明:「ある部分xが、xを含む全体yに対して機能fを持つがゆえに存在する(fはyの存立に寄与する)」という説明の様式。因果的説明には還元されない有意味な比較をおこなうことが可能で、因果的説明では難しい「合理的理解」「比較可能性」といったメリットがある。
- 機能主義が回避すべき3つのドグマ
- 社会学が科学的説明として有効たりうるためには、これらのドグマを回避しなくてはならない。(マリノフスキー、ラドクリフ=ブラウンに対するマートンの批判)
- 第1のドグマ:「社会の機能的統一の公準」:すべての文化的に標準化された活動や信念が全体としての社会に対して機能的であり、そこに生活する人々にとって一様に機能的である、と前提する社会理論
- ある文化的項目が社会内部で生活する人々にとって一様に機能的である、ということはありそうもない。
- 第2のドグマ:「機能主義が普遍的であるという公準」
- 分析対象となった全体社会に存在するすべての文化的項目が(正の)機能を持つわけではない。社会に存在する何から何までが意味や機能を持つという前提から離れるべきである。
- 第3のドグマ:「特定機能項目の不可欠性の公準」
- 同一の項目が多様な機能を持つことがあるように、同一の機能が選択しうる諸項目のどれによってでも果たされうる。
- 本書では、このマートンの基本的視座を持った理論を「等価機能主義」と呼ぶ。
社会分析の対象
- 等価機能主義における
- 機能(function 関数)と
- 項目(項)
- のうち、社会分析の対象となる「項」は、一回限りの出来事の「トークン」ではなく、定型化された出来事の「タイプ」。
- 社会学的機能主義の対象となるものは、さらに、社会を生きる人々にとっての目的や動機(志向性)と関連を持つものに限られる
- 社会の規則
- 自然科学の法則は、他の条件が等しければ違背されえないような法則だが、私たちの行為や発話の規則性といったものは、そうした意味での規則性ではない。
- 意味的に構成され、理由によって正当化されうるように「従う/違背する」という実践が可能な規則が、私たちの生活世界を可能たらしめている。(違背したり、意味を問い返されるときに原因・理由にもとづく動機によって説明され得る)
- 動機がある記述のもとで意図的といえるためには、志向的な語彙によって記述されなくてはならない。社会学が扱う行為や相互行為、出来事であるためには、志向性に関連させられるということが条件。
- 単位と全体
- 人間は自らの環境を(客観的な環境変化とは独立に)定義づけ、その自ら構築した環境のなかで自らの行為を方向付ける。(cf. ホーソン効果、マートン「予言の自己成就」)
- 人々の漠然とした社会問題の把握 → 分析者によるカテゴリー化・定義 → そのカテゴリーの人々による使用 → 分析者のカテゴリー化の修正:ループ効果(ハッキング)
- 分析対象の「単位」が「全体」とともに、準拠問題に即して、論理的に同時に決定される。
単位を決めるということが単位によって構成され、単位を包摂する全体を決める。
このとき、この分析単位が「相互行為」であるというのが社会学のポイント
準拠問題
- 社会を分析する社会学者にとっての解くべき問題、社会を実際に生きる人々自身が解消されるべき問題として立てる問題:準拠問題
- 社会の成員と社会の分析者との間に認識論的優劣はない。
- 準拠集団ごとの「準拠問題-解決-機能的等価物」を考えるのが比較という作業
- 他でありえた可能性:ある特定の観点から見た「準拠問題-解決」のセットが、メタレベルの準拠問題からすると他でありうる
- 機能的説明のためには、準拠問題を比較するメタ準拠問題=社会理論が必要
- この社会理論も人々の問題定立・解答に対して認識論的優位にあるわけではなく、理解可能性を担保する必要がある
- ルーマン型機能主義では「社会システム論」を社会理論として採用する
- 人々が自らの準拠問題を、先行する準拠問題・解答タイプ(構造)に基づき解決していくそのあり方(作動)を描くもの。システムの同一性は、人々の準拠問題に即してさまざまな水準を持つ(相互行為/組織/機能システム/全体社会)
- 「比較」という目標で科学的説明を掲げるのであれば、個別の準拠問題のみならず、準拠問題を比較するためのメタ準拠問題を設定しなくてはならない。
- 社会システム:人々の社会関係に焦点を当てて、複数の準拠問題・解答の意味的関連性を比較する参照点であり、それ自体特定のメカニズムと同一性を持つもの
- 本書では、マートン型機能主義で採用する準拠集団論をルーマンにより補正し、合理性・道理性の連関に準拠したタイプの準拠集団論として採用
等価機能主義の作業プロセス
- 準拠問題
- 機能が認められる項目を設定する(分析対象の設定)
- それが解決のひとつになるような問題(準拠問題)を立てる
- 人々の理解可能性・道理性との関連を観察する(動機・目的といった志向的概念との関連)←分析の単位と全体メカニズムの明示化
- 準拠問題-解答のセットを特定化する(合理性判断の規準を明示)
- 可能なる解答(他でありうる解答)
- 機能的等価物(解決)の探索:等価性の範囲を画定し、準拠問題の別の解決(分析対象の機能的等価物)を探索する
- 可能なる解答を比較するための新しい準拠問題の設定
- 機能的に等価な異なる準拠問題を立てて、これらの準拠問題に関して先の機能的等価物同士を比較する
- 可能なる解答の考察を反復