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アレックス・ガーランド “シビル・ウォー アメリカ最後の日”






“Civil War”
 Director, Writer : Alex Garland
 US, UK, 2024


 かなりおもしろかった。
 いま見るべき映画。
 正確に言うなら、今年11月のアメリカ大統領選挙までの間に見ておいた方がいい映画。

 タイトルの通り、内戦が巻き起こっている近未来のアメリカ合衆国が舞台。連邦正規軍を圧倒する西部連合軍がワシントン・D.C.を陥落する寸前、4人のジャーナリストが大統領へのインタビューを行うためニューヨークから1,400kmをかけて首都への旅に出る……という筋立てのロードムービー。
 このタイトルと設定を聞いたとき、誰もが現実の大統領選、現実のアメリカの状況を考えずにはいられないだろう。
 ただし映画内での内戦の構図は現実の政治状況に重ならないよう慎重に計算されている。「テキサスとカリフォルニアが主導する西部軍」という設定は決してアメリカの政治状況・党派対立を反映していない。南北戦争でも別陣営で現在の政治的立ち位置も対極にあるテキサスとカリフォルニアが同じ陣営にされている時点で、意図的に現実の状況を回避したがっていることがよくわかる。
 けれども「アメリカの内戦」という事態そのものは、もはやまったく唐突な絵空事ではなく、そうしたことも起こるかもしれないと誰もが薄々思い始めている事柄であって*1、そうした現実の緊迫を背景にしてこの映画は成立している。実際、2020年大統領選結果が不正だと信じるアメリカ人がいまなお無視できない比率でいることは、分断がもうどうあっても架橋できないレベルで刻まれてしまっていることを示しているし、2021年1月6日には暴徒による議会乱入というありえないはずだったことが起きてしまっているのが現実である。
 また、映画製作者は意識して無党派的であろうとしているのかもしれないが、「FBIを解散させジャーナリストを拒否し現行憲法の規定を超える3期目の大統領」という設定は、2024年大統領選候補者である元大統領が実際に「3期目」「憲法停止」「もう投票は不要になる」と発言している事実を踏まえると、必ずしも現実の政治と無縁とも言い切れない*2

 何にせよ「実際にアメリカが内戦状態になったらどうなるか」ということをこの映画は非常によく描き切っている。要するに「もしアメリカが内戦になったらどうなるだろう」とわたしたちが考えるときに思い浮かべるような情景がひととおり出てくる、と言ってもいいのだけど、それはつまり、アメリカ以外で実際に内戦が起こった国々のニュース映像などでわたしたちが知った情景が、アメリカを舞台に描写されている、ということでもある。劇中で主人公が、「世界各地の戦争・紛争を取材してきたのは故国に警告をするつもりだったのに、いまこの国はそうなってしまった」といったことを言うシーンがあるが、まさしくその通りで、これまでどこかの途上国で起きる出来事だと見なしていたことがアメリカで起こっていて、観客にとってもそれが完全なフィクションではなく今後の行く末次第では現実に起こり得るものとして映っている。冒頭、星条旗を掲げて突入してくる自爆テロのシーンがそうした諸々を詰め込んだ掴みとしてよくできていた。

 そしてロードムービーという形式がこの題材にとても適している。
 アメリカ各地での惨状を切り取り少しずつ見せつつ、そのなかにはまるで内戦など起こっていないかのようにやり過ごしている場所もあったりしながら、仲間のジャーナリストとのふざけ合いからその直後に一気に地獄へ転落する起伏、そして首都を陥落すべく進撃する反政府連合軍──。
 そういったすべてをこの映画は実に巧みに描いている。一枚の絵としても成立するような強い印象を残すショットが次々と映し出される。
 さらにそこへ加わる音楽とその選曲、そして音響のみごとなこと。特に映画の最中ずっと鳴り止まないごとくに思える銃声。
 絵と音の高いクオリティがもたらす臨場感によって、首都の大統領府という終着地へ向けて自分もほんとうに旅をしているかのように引き込まれていく。

 旅するのは戦場フォトジャーナリストのリー、ロイターのジャーナリストであるジョエル、NYTのベテランジャーナリストのサミー、フォトジャーナリスト志望のジェシー。
 彼らの帰趨はこのキャラクター構成から必然的に定まっているといってもいい。
 特に師弟的関係にある3人。主人公のかつての師であり、体が思うように動かない老練なジャーナリスト。あぶなっかしい若手を見つめる経験豊富な著名ジャーナリスト。まだ何も果たしていないけれど旅の中で成長し未来をもったジャーナリスト。それから「わたしが死んだらその写真を撮る?」という問いかけ。
 これらすべてが絡み合い、それぞれのポジションと意義付けからそうあって然るべき展開によって進行し、だからこそ最後にジェシーが取る行動は、残酷なほどわかりきった結果でもある。

 物語上の目標であるホワイトハウスに近付くにつれて銃声が増し画面を埋め尽くしていき、それとともにジェシーのシャッター音も止まらなくなる。銃撃も撮影もどちらも「ショット」であって、それが極点へ向けて乱れ撃ちとなる。
 そして銃とカメラ両方の最後のショットが生み出したのがラストの1枚であり、これこそが後の世で歴史の教科書に載る写真なのだろう。この映画はそうした究極のワンショットへ登り詰めるプロセスを描いている。










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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell