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 “カメラを止めるな!”






カメラを止めるな! One Cut of the Dead
 監督 : 上田慎一郎
 2017





 低予算インディーズ映画。ネタバレ厳禁的なタイプ。
 とはいえ、オフィシャルサイトやポスターの最低断片情報だけでも何となく予想ついてしまうかもしれない。
 要するに「二回目」があって、そっちが本編だ、というところがポイント。見る前にこの程度は知ってていいと思う。
 あと、「ワンカット撮影」ってのも重要。(これはまあタイトルに示されている)
 もうひとつ最重要の要素があるけど、それ言うと完全に仕掛けがわかってしまう。(予告編ではかなり決定的な部分まで言ってしまってる)



[以下ネタバレ含む]


 何が「二回目」で「ワンカット」なのかというと、つまり、ワンカットの生放送ゾンビ映画を撮影する顛末である、ということ。
 「生放送」ってところが最も重要な要素だと思う。この制限があるためにさまざまなドタバタが生まれているので。
 「一回目」の映像は作品内作品で、「二回目」は、それを撮影していたときの様子を企画段階からの流れで描写している。内容としてはこちらが本編と言える。

 本編の方は、コメディ。
 テーマとしては、映画撮影にまつわるクリエイティビティだとか、家族の再生とか。
 最後のシーンでは、紆余曲折あって一本の作品を完成させたときの達成感とか一体感とかが爽やかに表れている。
 作品内作品と合わせると計96分、でも本編だけだとちょうど1時間程度。そのなかで作品内作品の撮影シークェンスを語り直しつつもテーマをしっかり描き切る、というのは、ストーリーテリングがよくできてると思う。

 本編はジャンルとしては家族映画的コメディなわけだけど、でも一方、こっちにもある意味でホラー映画的な構造がある。予想外のトラブルが続出して危機に見舞われるというところとか、あるいは、生放送完遂という目標を達成できるかどうかというのがちょうど命を守りきれるかどうかというサバイバルっぽく見ることができて。実際、作品内作品の出演者たちが途中から収拾つかなく暴走し始めてくとこなんか、笑えるとともにホラー映画の構造に完全に乗ってる。


 「ワンカット」であることにきちんと理由付けがある、というのも特記しておくべき点。
 ……作品内ではプロデュースサイドからの要望だってこと以上の理由はないんだけど、『カメラを止めるな!』という作品としては理由になっている。ワンカットだからこそ生まれるトラブルってのが内容につながっているので。
 『ヴィクトリア』や『PVC-1』といったワンカット映画は、どうしてもそれが技術的にすごい、って面に目が行ってしまうところがあったのに対し、この『カメラを止めるな!』は、その一歩上のおもしろさに踏み入っている感じがある。
 ハンディカムの映像は途中からやたらきつくなっててほんとに酔うんだけど、あれにも理由と意味があるというのが後でわかる。
 ワンカットの撮影者が本編の方では登場人物の一員になる。そしてこの本編の方にも別の撮影者がいるはず。であればそこにもドラマがあるはずなのだ。――というように、メタレベルへ視点を遡行させるような働きもあるのもおもしろいところ。


 全体的にインディーズっぽさ(完成度の低さ、予算のかかってなさ)というのがはっきり出ていて、でも映画の構造上、それがむしろプラスに作用している。
 あの作品内作品がもっとよくできてた方がいいのかどうかってのはあるんだけど、ああいう完成度だからこそ「二回目」で笑いが生まれるのはある。
 わりと情報シャットダウンして観たこともあって、作品内作品の「よくできてなさ」が逆にリアル路線的に見えていたことも事実。プランニングされてないような妙な生っぽさがあり、どう進んでいくのかちょっと読めないところがあった。レンズに血が付くところなど*1、これ明らかに「撮影者」がポイントだと示してるんだろうなというのはわかってくるんだけど、まあでも内容自体はおもしろくはないよね……と思いつつ見ていて、でも仕掛けがある映画だというのはわかってるのでがまんして「一回目」を見ていく、という感じ。奇妙な「間」とか、キャラクターの不可解な行動とか、逆にリアルにホラーっぽく感じるところが随所にあり、だけどそうしたものの意味がぜんぜんわからない、と……。
 そして、そうしたすべては二回目で伏線回収され、笑いにつながっていく。
 

 ということで、笑えるのは笑えるし、実際おもしろかった。
 ただ、結局これってよくできたアンジャッシュ風のコントなのかも、って思ってしまう感じも否めない。本編側のテーマ描写がよかったことを含めても、シネコンでロングラン、ってほどの映画ではないような気もする。
 でも、小規模上映からSNSで話題に火が付きメジャー公開へ、っていう現象全体を見たとき、何か好意的に感じるところはある。
 最終的に残るのが「映画(づくり)っておもしろいよね」っていうものなので、そこに対しての共感ということなのかもしれない





IMDb : https://www.imdb.com/title/tt7914416/

*1:レンズに血が付いたのはどうも意図しない偶発的なものだったらしいが、そういうのも許容しながら成立する構造になっている。






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell