リアル路線のミリタリー系ロボットSF。
約12分の短いエピソード全6話から成るオムニバス。youtube配信での公開。
虚淵玄が原案・シリーズ構成を手がけている。
近未来、異星人からもたらされた技術を用いた人型機動兵器が各地の紛争に使われつつある時代、という世界設定。各回ともこの兵器をめぐる話を描きつつ、EP5とEP6を除くと直接的なつながりはなく、登場人物も舞台も時期も異なっている。
短い時間のなかに冗長なドラマ部分はなく、非常に断片的な物語が連ねられていく。通常の30分アニメから、後半の戦闘シーンの派手なクライマックス部分だけを抽出した、みたいな感じがある。
細切れのエピソードを通じ、さまざまな紛争の影にいる謎の戦闘部隊の存在が浮かび上がってくるという軸があるのだが、結局全体を通してはっきりした物語とはなっていない。本格的な作品展開の前段、という位置付けに思えなくもない。
現在公開されているEP1〜EP6の後、2020年冬にパート2としてEP7〜12の公開が予定されているらしく、トレイラーを見るかぎりではそこで大きな物語が見えてくるようだ。
21世紀型戦争のリアリズム
この作品がどう「リアリズム」なのかというと、ひとつには現在の軍事・国際情勢の描写という面、もうひとつはミリタリーガジェットの描写という面がある。
まず軍事・国際情勢の面で言えば、「非国家軍事組織」というものの存在がクローズアップされてきた現代の状況を素材にしているところの同時代感覚。それも先進国以外での地域紛争に視線を据えているのが特筆すべき点だ。
ひとつの勢力に寄せず万遍なく視線を配分する「多視点の群像」は、この種のシリアスSFアニメとしても珍しい方ではないか。特殊なヒーロー的機体がなく単一の素体を応用してつくられた量産型消耗兵器、というエグゾフレームの設定に合っている作劇だと思う。
シリーズ全体でアメリカ海兵隊が一方の視点に置かれてはいるけれど、片方には常に派遣先の現地視点が登場し、ゲリラや国境警備兵、少年兵といった存在を通じて戦争が描かれる。
より正確に言えば、シリーズを通して視点が「アメリカ」からその正対する側へとシフトする。
EP1ではアメリカ海兵隊を視点として「アウトキャスト・ブリゲード」の不気味さを描き、EP2ではやはりアメリカ軍部隊へ襲来するゲリラの脅威、EP3では身分を偽ってインドへ赴く海兵隊員と印パ両軍の戦闘、EP4はPMCメンバーと中東の港湾作業者のちょっとした交流、そしてEP5・6ではアフリカの少年兵がアウトキャスト・ブリゲードに育っていく過程……というように最初は先進国の最新鋭部隊の視点で描かれた物語が、各紛争地の視点を徐々に混ぜながら最終的には、1話で海兵隊に抗する謎の部隊だったアウトキャスト・ブリゲードの側へ視点の交替を遂げるわけだ。
人型機動兵器のリアリズム
ガジェットとしてのこのエグゾフレームが、もうひとつの「リアル」を表現している。
エグゾフレームは異星人からもたらされた機械を人間が改造してつくりあげた兵器とされているのだが、これはもうただ「人型機動兵器」を成り立たせるためだけの設定で、それ以外の意味はないと言っていい*1。この前提を不問のものとして、では「人型機動兵器が席巻する現実世界」はどういうものなのか、が描かれていく。
約2.5mの素体にさまざまな武装を取り付け、搭乗する人間の思考操縦で動く兵器。この機動兵器が人間同様……というよりそれ以上のスムーズな身体運動を可能とし、戦地の廃墟を身軽に飛び越え、あるいは水中を潜航し、ときには雪山をスキーで滑走までするという縦横無尽ぶり。
人間同様と言いつつも、関節位置が微妙に地球人類と異なっているので、ただ人間形態の3D運動を見せられているのではなく、未知のフィクショナルな機動兵器っぽさがある。
こうしたところには、現実世界で開発されているさまざまな歩行ロボットを彷彿とさせるものもある。以前、ボストン・ダイナミクスの四足歩行ロボットの実物が動く様子を技術展示で見たのだが、人型機動兵器って思ってた以上にぜんぜん現実化しそうだな…と感じたりした。エグゾフレームが動いている姿もちょっとあれに似た雰囲気がある。
そういう意味では、ボトムズあたり(1980年代)の「リアルロボットSF」と現在のリアルロボットSFでは、鑑賞者にとって「リアル」との距離感は違うはずだ。最近のアニメに登場するロボットがことごとく3Dモデルで描写されていることも併せると、「現実の技術」と「描写の技術」の垣根は意外と低くなってきているのかもしれない。
ただ、実際の軍事技術は無人化兵器にシフトしつつあるので、ロボット兵器に人が搭乗するという点については「非現実的」ではある。OBSOLETEでは、人間が思考リンクして操縦しなくてはならないので人が搭乗しているという理由付けが立っているが。
逆に言うと、あえて人を乗せることに制作側意図がある。
“OBSOLETE” というこのタイトル、「廃れた」という意味とともに「時代遅れ」という意味があり、「使い捨ての兵器」「異星人が廃棄した兵器」ということの他、ロボットアニメそのものが時代遅れになっている、という認識が制作側にもあったようだ。
「そもそも何でロボットアニメが制作される本数が少なくなってしまったのか、という疑問があったんです。きっと何かが障害になっていたんだろうと。ならば、その障害になりそうなものを全て外して企画を考えてみました」
“物語請負人”が仕掛ける、新たなロボットアニメの真髄――『OBSOLETE』虚淵玄インタビュー
それにしても、「使い捨ての量産型ロボット兵器」たちの動きがいちいちかっこいい。水陸両用のホバーモジュールとか。
フェティッシュに追及されてるミリタリーのディテール表現も良い。非正規軍、アメリカ特殊部隊、PMC、というそれぞれで機能や個性の違いが表れたデザインも。
あとはEP5で、機体外部にいる操縦者が引き金を引く身体所作とリンクしてエグゾフレームが狙撃するシーンとか。
EP 1 “OUTCAST”
SOMEWHERE IN SOUTH AMERICA - 2023
EP 2 “BOWMAN”
CIBINDA - 2015
EP 3 “MIYAJIMA REI”
SIACHEN GLACIER - 2016
EP 4 “LOEWNER”
PERSIAN GULF - 2017
EP 5 “SOLDIER BRAT”
SUB-SAHARA - 2016
EP 6 “JAMAL”
SUB-SAHARA - 2021
PART II TEASER