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N・K・ジェミシン “第五の季節”

“The Fifth Season”
 2015
 N. K. Jemisin
 ISBN:4488784011




〈破壊された地球 Broken Earth〉と名付けられたトリロジーの第1作品。

 舞台となる惑星は地殻活動が活発な状態にあり、数百年に一度の間隔で巨大地震や破局噴火といった大変動に見舞われている。これらの災厄は数年から数十年といった期間続いて人々を苦しめ、《第五の季節》と呼ばれている。記録上1万年前程から人類はこの災厄に襲われ続けており、その都度人口や文化の後退を余儀なくされたが、絶滅には及ばず、隆盛を繰り返して現在に至る。
 こうした環境にさらされ続けた結果、人類の社会形態は《季節》の到来を前提としたものに変じており、用務に応じたカーストやさまざまな制度をもって、いずれ必ず再来する災厄へ備えていた。
 そのなかで最も特異な存在が《オロジェン》と呼ばれる者たち。彼らは大地や熱のエネルギーを用いて地殻変動を制御し得る超能力を持っており、襲い来る地震の抑制が期待される反面、その力自体が脅威になりかねない者であるとして厳格なコントロール下に置かれている。


 物語は、並行する3つのパートによって進行する。
 それぞれ、エッスン/ダマヤ/サイアナイトという3人の女性の視点。いずれもオロジェンだが、年齢は異なる。
 設定を掴みきれていない最初の頃はかなりとっつきづらかったけど、どのパートも急におもしろくなり始める局面があり、そこからは一気に引き込まれていく。文庫版で約600ページのボリュームだけど、電子版で読んでたらそんなにあると思わず、途中からは無休で読み通せた。


 まだ1巻だけでわかることは少ないけれど、テーマ的なものは何となく見える。
 すなわち、「危機に瀕しているのだから、生き残るためには残酷で抑圧的でも仕方がない」──ということを許容するかどうか。
 物語としてはこれを拒否する方向へ世界を変えようとしていくと思うのだが、《オベリスク》や《石喰い》といった未知の存在がどう絡んでくるのかはまだ全然見えてこない。
 世界体制は端的にディストピア。それこそ、つい最近現実社会での事件や炎上事例のあった「優生思想」で成り立っているし。これが物語として肯定されていく展開になるとは思えない。ついでに言えば《季節》というのは、いまだとどうしてもパンデミック下にある現実世界に重なって映る。執筆時期からしても意図外の偶然だし、混乱と災害の度合いは《季節》の方がはるかに大きいのだが。


 雰囲気としては、社会・生態を細かく設定立てて描写するところがル・グウィンとか『デューン』とかに似てる。
 3パート構造でただでさえ混乱しがちなところ、独特の社会や用語を掴むのに最初苦労するし、世界設定が反映されている罵倒語とおぼしき言葉が混じった文体(「錆び」「地球火」とか)で非常に読みづらいけど、理解が進むにつれて魅力がわかる。特に3つのパートの主人公たちの関係がわかってから。この主人公たちにかぎらず、登場人物たちの「変化」「変貌」や「正体」の意外性みたいなのもこの作品の佳所。

 トリロジーSF作品、最後まで邦訳が出ないパターンがままあるのでこの作品も不安なのだが(同じ作者のファンタジー “Inheritance Trilogy” がまさしくそうで、第2作品までで邦訳が止まっている)、この〈破壊された地球〉シリーズは3作品すべてが3年連続でヒューゴー賞授賞という史上初の快挙を果たしたらしいので、邦訳出しきる可能性はあるかな、と思う……。


 






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