現在、BLM運動に呼応する音楽がさまざまに生まれる中、このアルバムは鮮烈なサウンド表現と徹底したコンセプトとで傑出している。
ここでおこなわれていることは、簡単に言えばブラック・ミュージックとしてのテクノ再構築。その意義は、Speaker Music が参加しているキャンペーンのタイトル “Make Techno Black Again”*1 というフレーズにいみじくも集約されている。要するに、デトロイトから始まったテクノが“ホワイトウォッシュ”されてルーツが忘却されつつある今、アフリカン・アメリカンの歴史とブラック・ミュージックの歴史を踏まえたその延長へテクノをふたたび位置付けようという試行だ。
そしてその結果できあがったものは、奇跡というか怪物というか、とにかくとんでもないものに仕上がっている。
ドラムンベースなどの地平をはるかに越えたような先鋭的なビート展開に、ジャズやサンプリング、ヴォイスやノイズが組み合わさって生み出された無比の光景。あたかもふたつの異なる時間線が通っているかのようで、たとえばM-11では、緻密で複雑なパーカッションの速度とゆるやかなサックスが完全に融け合わず、それでいて反発することなく絶妙に共存している。
冒頭、Maia Sanaa による詩が警官によるアフリカン・アメリカン殺害を滔々と語り、重いビートがことばを運んでいくところから既に全体の方向性が明確に表れている。
M-2、M-3と進むにつれ、繊細に刻まれる高音部と低音部の混交が全編に通底するひとつの指針となっていることがわかり、曲ごとに管楽器だったり警察無線のサンプリングだったりスポークン・ワードだったりが登場して異なる音響空間が現れつつも、根底を成すビートが聴き手の身にしっかりと加圧されていくことを知る。
M-9はニュースプログラムを素材に使った楽曲。司会者とゲストの専門家による淀みなく続くトークが、流れるビートによって語の抑揚を補強されて、何か新しい音楽のフォーマットと化している。少し前に RTJ の Killer Mike がBLMの文脈でおこなったスピーチが、それ自体まるでアカペラのラップであるかのような力を持っていたことを思い出すが(“Plot, Plan, Strategize, Organize and Mobilize”のリフレイン)、この曲のトークには押韻もなければ情熱もない。口語に自然に備わる均一な速度、説明としての論理性といったものが、迷乱し飛び回るリズムに共鳴して音楽となっている。
そして忘れてはならないのが、曲タイトル。
“A Genre Study of Black Male Death and Dying” や “Super Predator” といったように情勢を率直に表したものが多いのだが、何より目をひくのは、“Black Industrial Complex - Automation Repress Revolution in the Process of Production, and Intercontinental Missiles Represent a Revolution in the Process of Warfare” のようなやたらに長いものがいくつもあること。タイトル自体が、主張するテクストになっている。
先進的であり、批評的であり、何よりも現在的である音楽。それは長い歴史を血肉として継ぐものであり、今なお進行する事態を体現しているという意味でまさしく「尖端」にある。
Speaker Music
Information | |
AKA | DeForrest Brown, Jr. |
Current Location | New York, US |
Years active | 2019 - |
Links | |
Official | |
SoundCloud | https://soundcloud.com/speakermusic |
bandcamp | https://speakermusic.bandcamp.com |
https://twitter.com/dfnbrown1 | |
Label | Planet Mu https://planetmu.bleepstores.com/release/193650-speaker-music-black-nationalist-sonic-weaponry |
*1:
ニューヨークのアパレルライン HECHA / 做 と クリエイティブ・エージェンシー Grit Creative によるキャンペーン・ハットで、テクノのルーツがデトロイトやアフリカン・アメリカンのワーキングクラスにあることを再周知させる目的によるもの。Speaker Music が楽曲を提供している。