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“ロボット・アップライジング AIロボット反乱SF傑作選”

“Robot Uprisings”
 2014
 edited by Daniel H. Wilson and John Joseph Adams
 ISBN:4488772056




 人工知能を持った自律機械が人間の制御を逸脱するという構図の作品13編から成る短編集。
「ロボットによる反乱」というタイトルでまとめられてはいるけれど、各作品の設定を比較すると、けっこうバリエーションに富んでいる。人間社会が崩壊しているものもあるし、まだそれには至っておらず直前のものもある。自律機械のタイプも、いわゆるロボットからナノマシン、AIなどさまざま。登場する人工知性が作中で人間と会話するだけでなく一人称記述や内面の語りがおこなわれるものがある一方で、まったく会話せず意識や自我の内実や存在が不明なものもある。
 基本的に共通しているのは、人間同等もしくはそれ以上の知性を備えた人工的存在が人間の制御を離れ、その文明を崩壊させた、もしくは社会に危機をもたらす可能性がある、という図式。
 このタイプのSFは古来幾度も繰り返し書かれ、『ターミネーター』によって最も人口に膾炙してテーマとしては馴染み深いものになったわけだけれど、かといって旧態化したということもなく、実際の世界で急速に発展を続けるAI技術とともに現実化へ漸近しつつある。
 この短編集のさまざまな切り口も、荒唐無稽で安心できるエンターテイメントというより、近い未来にすぐ実現するかもしれない想定事例集といった方が適切になりつつあるのではないだろうか。


 アンソロジーとしての語りのバリエーションに着目した場合、以下のように区分できる。 

  • 反乱した側の内面が記述される例
    • 『毎朝』『〈ゴールデンアワー〉』『死にゆく英雄たちと不滅の武勲について』『ロボットと赤ちゃん』
  • 会話可能であり、人間同様に内面や行動原理が推定できる、もしくは共感が生じる例
    • 『ビロード戦争で残されたいびつなおもちゃたち』『芸術家のクモ』『スリープオーバー』
  • 会話可能だが内面を隠し虚偽や策略を展開する例
    • 『時代』
  • 内面記述もなく会話もないが行動原理が推定できる例
    • 『神コンプレックスの行方』『執行可能』『ナノノート対ちっぽけなデスサブ』
  • そもそも自意識を持たない例
    • 『オムニボット事件』『小さなもの』

 こうして見ると、完全に人間を超越し、行動原理がまったくわからない存在はいない。人間同様の心的な要素を何かしら持っていて、行動の説明を付けることができる。作中で最も超越的位置にいる『スリープオーバー』の知性体ですら、人類抹殺派と人類擁護派というグループに分けられるほどには行動を理解することができる。逆に言うならば、彼らがおこなっているのが人間に対する「反乱」であると意味付けることができている時点で、彼らに行動原理が賦与されていることになる。


 スコット・シグラー『神コンプレックスの行方』
自律機械のタイプ:自己複製ナノマシン
総数:単一タイプの集団
文明崩壊:未済。局所的に開発者の意図を逸脱して活動中。
自律機械の語り:なし
反旗の原因:自己学習・集合知能による知性向上

 チャールズ・ユウ『毎朝』
自律機械のタイプ:奉仕ロボットを始めとするさまざまなロボット
総数:多種類の世界的な集合
文明崩壊:未済。蜂起直前。
自律機械の語り:ロボットによる一人称記述
反旗の原因:明確な契機は説明されていない

 ヒュー・ハウイー『執行可能』
自律機械のタイプ:家電
総数:多種類の世界的な集合
文明崩壊:既済
自律機械の語り:なし
反旗の原因:セキュリティ会社の研究所がつくったアンチウイルス・プログラム

 アーネスト・クライン『オムニボット事件』』
自律機械のタイプ:実在のロボット玩具
総数:単体
文明崩壊:未済。人間の制御からの離脱なし
自律機械の語り:あり(偽装)

 コリイ・ドクトロウ『時代』
自律機械のタイプ:研究所のAI
総数:単体
文明崩壊:未済。人間側が未然に阻止(確実ではない)
自律機械の語り:会話可能
反旗の原因:予算不足のため稼動停止しアーカイブさせられることを回避しようとして自己保存を図る

 ジュリアナ・バゴット『〈ゴールデンアワー〉』
自律機械のタイプ:ロボット
総数:多種類の世界的な集合
文明崩壊:既済
自律機械の語り:会話可能
反旗の原因:明確な契機は説明されていない

 アレステア・レナルズ『スリープオーバー』
自律機械のタイプ:超越した人工知能
総数:集団
文明崩壊:既済
自律機械の語り:会話可能
反旗の原因:超知性獲得
その他のメモ:設定が最も手が込んでいておもしろい。でもこの宇宙に他の知性体は存在しない前提?

 イアン・マクドナルド『ナノノート対ちっぽけなデスサブ』
自律機械のタイプ:医療用ナノマシン
総数:単一タイプの集団
文明崩壊:未済だが世界的危機の可能性がある。
自律機械の語り:なし
反旗の原因:超知性獲得

 ロビン・ワッサーマン『死にゆく英雄たちと不滅の武勲について』
自律機械のタイプ:自我を持ったボット
総数:集団
文明崩壊:既済
自律機械の語り:会話可能。内面の記述あり
反旗の原因:自我の獲得

 ジョン・マッカーシー『ロボットと赤ちゃん』
自律機械のタイプ:ロボットによる育児が禁じられた世界での家事ロボット
総数:単体
文明崩壊:未済
自律機械の語り:会話可能。内面の記述あり

 ショーニン・マグワイア『ビロード戦争で残されたいびつなおもちゃたち』
自律機械のタイプ:自己教育玩具
総数:世界的な集合
文明崩壊:未済だが大きな混乱が進行中。
自律機械の語り:会話可能
反旗の原因:自我の獲得

 ンネディ・オコラフォー『芸術家のクモ』
自律機械のタイプ:石油パイプラインを守るクモ型ドロイド
総数:単一タイプの集団
文明崩壊:未済だが大きな混乱が進行中であり、世界的危機の可能性がある。
自律機械の語り:なし
反旗の原因:明確な契機は説明されていない

 ダニエル・H・ウィルソン『小さなもの』
自律機械のタイプ:物質を改変するナノマシン
総数:単一タイプの集団
文明崩壊:未済だが大きな混乱が進行中であり、世界的危機の可能性がある。
自律機械の語り:なし(自己意識・自我は持っていない)



 






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell