::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

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倉田タカシ “あなたは月面に倒れている”






 9作品を収載した短編集。
 全体として会話の文体、固有名詞、フィーチャーする社会的事象の選好テイストが比較的自分の趣向に近くて、概ねストレスなく読めた。自分にとって邦SFは、内容以前にそのあたりで抵抗感じてしまうものが少なくないので……。
 といっても内容自体は各作品とも、どこか不明瞭な部分があって、わりきれなさがもやもやと残るようなもの。最初の3編 “二本の足で” “トーキョーを食べて育った” “おうち” は特にそう。結局〈思考機械〉が黒幕なのかどうかがはっきりしないところとか、まだ状況を大人のようには理解できていない子どもの視点だとか、完全に意思疎通できない猫だとか……。妙に靄のかかったようなところのあるこの視野設定が個性的。
 ハードサイエンスではなく、現存技術の近未来への外挿に拠っている点がSFとしての特徴。“天国にも雨は降る” の冒頭の会話が、細かく説明せず語感だけで近未来世界の日常が描写されているのがよかった。
 表題作品 “あなたは月面に倒れている” は、ゲームブックのパラグラフのような文章で始まる短編で、予測できない方向へ話が展開し、劇的にスケールアウトしつつも、やはり曖昧なところを残して冒頭に戻る──という構造。


 






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell