一瞬の機会を、なぜつかむことができないのだろう。
単調に続く日々のようでも、そのような貴重な瞬間がときおり訪れ、取り逃がしている。
“雲のむこう、約束の場所”(2004)
新海誠の新作。91分。純粋な商業作品としての第一作。
うーん...、微妙!
でもこの最初の気持ちを綴っておかなければ。
いいところもあったし、基本的には支持しているのだけれど。
まず、声優に俳優を起用する、ということを知った時点から若干の危惧はあった。まあでもそれは映像に専念すればそんなに気にならないだろう、声だけなんだし、と思ってた。だけどやっぱり、俳優による声優と、専門の声優とは、明らかに演技のスタイルが違う。宮崎駿作品のような印象。俳優の方がリアリティがあるという判断によるのだろうか? 絵との呼吸が合ってなくて、違和感を感じる。アニメではどうしても人物の表情が簡略化されたものになるから、実写のような濃い演技をされても、バランスが合わないと思う。
映像構成は、断片的なシーンの連続。ブラックアウトを挟み、頻繁に細分される。展開がたるい。全体の時間が中途半端な長さかも。
さらに、人の動きが、わりとリアリスティックな動きを追求しようとしている姿勢は見えるけどなんかぎこちなくて、とろく感じる。
そして女の子が、非常に、かわいくない。
走り方とか、座り方とか。あからさまにかわいさを狙ってるけど、フィクションのなかでさんざん使われてきた語彙の無反省な利用に拠っている。女の子らしい仕草なんて前面に押し出さなくても、あるところではっと気付くような描写の方がリアルだし効果的なのにと思う。
風景はあれだけリアルに描くのに、人物にリアルさが感じられないのは、対照的。人物に対しては、リアリズムをもって観察せず、スタイルの踏襲にとどまっている。そこらへんは、宮崎アニメにも通じる。笑いどころのつくりかたも、全然しっくりこないし..。キャラクター設定自体は、わるくないんだけど...。それに、女の子には主体性があった方がよかったと思う。
一方、風景描写は、前作よりさらに格段にきれいになっている。構図も含めて。木造建築の多用。対比的にテクノロジカルな要素。研究室だとか、駅の電光掲示板とか。
「塔」は、軌道エレベータだと思ってたけど、そうじゃないみたい。なんか最上部があるし。あれだけの高さなら軌道エレベータじゃないとありえないでしょう!
あとは塔の内側の壁画とか他世界の塔とか、この人は、異世界系のデザインはあまり上手じゃないなって思った。前作のタルシス遺跡とかもいまひとつだったし。タルシアンとかヴェラシーラのデザインは、とってもいいんだけど。
ヴェラシーラはきれい。いいデザイン。動きも。
リアリティって、映画でも小説でも、「物語」を記述するうえでの根本的な礼儀だと思う。戯画的あるいは極度に抽象的な方向を狙っているのでなければ。リアリティとは、ただ緻密に描けばいいというものではなくて、日常見ている風景からの違和感を感じさせないということから生まれる。
人物描写も同様。会話とか、行動とか、動きとか。研究室あたりの会話はいいんだけど、日常のちょっとした会話があまりよくないな。物語は物語、と割り切ってもいいのかもしれないのだが。
風景描写が徹底的にリアリティを追求されてるのに、人物描写が隙だらけで、そのバランスが気になってしょうがない。
とはいいつつも、夢のなかでの再会シーンは、泣けた。あそこがクライマックスかな。エンディングよりも。
なんか否定的意見ばかりになったけど、基本的に支持はしている。細部がどうであっても、世界描写と、ピンポイントでの泣きどころは、前作同様にかけがえない。見る価値があるかどうかのラインは超えてる。断片的に、いい台詞もあったし。
過去にとらわれてしまっている主人公、っていうのは前作と同じテーマ。そしてたしかに、前作よりも明快な結末にはなっている。
[メモ]
リアリティ
風景/キャラクターのそれぞれに対して。
風景描写に対する圧倒的なリアリズム。一方で人物描写は、類型パターンに依存。
基本設定:並行世界。イーガン的。
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