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“バッド・ジーニアス”






“Bad Genius” (ฉลาดเกมส์โกง)
 Director : Nattawut Poonpiriya
 Thailand, 2017





 嘔吐するヒロイン。意図的に、しかも2回も。
 ……っていう点を言っとけばこの映画のおもしろさは充分要約できる気がする。

 タイの映画。高校生によるカンニングを題材にしたストーリー。
 現代的でスタイリッシュ。いかにしてカンニングを成功させるかというクライム・ムービーの軸があり、そこにユーモアも混ぜながらテンポよく進んでいく。
 込み入った手順で実行される最後の作戦がクライマックス、さまざまな感情がもつれ合ってほろ苦くも意志を感じさせるラストへつながる。


 どのキャラクターも良かったけれど、特に主人公のリン。
 いかにも秀才然とした風貌の冒頭から、やがて不正グループとしての活動を始め、大作戦を仕切るリーダーとなり、外観としても次第に垢抜けたものになっていく。最初から自信に満ち能力も充実しているキャラクターなので、別に内面の成長や社交性の獲得が外見に反映されていく…というようなわけでは全然ない。不正の只中へ浸かっていく過程がスタイル的な洗練によって表現されているという感じ。つまり、ピカレスク的なかっこよさを徐々に高めて最終ミッションの緊迫へと連なるという流れ。
 モデル出身ということもあって、たたずまいや眼差しに力がある。単なる天才、あるいは単なる犯罪者に納まらない屈折したキャラクターに合っている。白黒はっきり区分できないキャラクター、というのは、腐敗や格差、競争や駆け引きといったものが渦巻く社会的状況にあるからこそでもあるだろう。


 それから、折に触れ挿入されるインタビュー(尋問)のシーン。事後的にストーリーを振り返りながらキャラクター相互の本音の評価を語っているような内容なんだけど、これ失敗を予兆させるものに見えて実はミスリードなのが意外性あって良かった。サブキャラクターのひとりであるグレースは演劇もやっているキャラなので、どこまで演技なのかって思わせるものにもなっているし。(ちなみにリンがグレースに対して「演技やる方が勉強できるのよりよっぽど頭がいい」みたいに言うのは含蓄に富んだ台詞だと思う)
 すべてがフェイクと思いきや、全体を見てみるとそれなりに本心を語っているようにも見える。
 たとえばリンがバンクを父親と比較するところ。この両者は最後でも対比されていて、全体のテーマ構成で象徴的に扱われている。
 この映画、ストーリーはシンプルにエキサイティングなんだけど、テーマ面ではけっこう難解。心情や関係性がすぐわかるようなものとしては描写されていないので。ラストでリンがバンクの誘いに乗るのか乗らないかっていう局面も、どちらを選んでもすっきりまとまるようなものでもなく、結局、葛藤が最後まで残る。だからこそ、その上でリンがああいう行動を選んだということが意義深いのだが。
 ただ、分け前を拒否したっていうところはリンの内面を表す明快な部分だと思う。


 監督はもともとグラフィック・デザインを学んだ人で、PV制作などを経てこれが映画2作品目。そういうセンスは、OP/EDクレジットなどのデザイン志向にも表れている。





 

IMDb : https://www.imdb.com/title/tt6788942/






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―Angela Mitchell