ゲルハルト・リヒター “鏡の絵画 Painting as Mirror”@金沢21世紀美術館。
ゲルハルト・リヒター、日本初の総合個展。
1932年、東ドイツ生まれの画家。作品のスタイルは、主として「オイル・オン・フォト」「カラーチャート」「グレイ・ペインティング」「アブストラクト・ペインティング」「ガラス作品」に大別される。基本的には絵画を扱う。
「オイル・オン・フォト（フォト・ペインティング）」
写真を油彩で上書きした作品。さらにスキージ(へら)でぼかしをかける。
“エマ”“ベティ”“バラ”“ヴァルトハウス”“1945年2月14日”など。
「カラーチャート」
色見本のようなパターン。
“10枚の大きな色パネル”“4096の色彩”など。
「グレイ・ペインティング」
キャンバスをグレイに塗り込めることを徹底した作品。
“グレイの筆跡”“8枚のグレイ”など。
「アブストラクト・ペインティング」
抽象的に色を重ねていき、意図しない具象を表そうとする作品。
“岩壁”“壁”その他多数。
「ガラス作品」
ガラスを単体、着色、あるいは重ね合わせなどで用いる。
“鏡、深紅”“ガラス板”“直立する5枚のガラス板”“11枚のガラス板”など。
手法として絵画を用いてはいるが、写真の上から塗ったり、ひたすらグレイだけを重ね塗りしていったり、常に絵画を否定するような姿勢がある。絵画で何かを表現し得るということを信用しきれず、でもその手法をもどかしくも用いるしかない、というような。
結局どの作品も、明確な輪郭を持たない、ぼかしの入った画像となっている。それは人間の認識がそのように曖昧なものであるということを表現しているというよりも、絵画という表現手法に対する懐疑を執拗に追求し続けた表れ、だと思う。ところがその懐疑は他ならぬ絵画によって表明されているわけで、きわめてアンビバレントな関係がある。そこに緊張感がある。
その他常設展示
“スイミング・プール La Pileta”
レアンドロ・エルリッヒ Leandro Erlich
中庭にあるプール。水面は実は強化ガラスの上に張られた水で、ガラスの下へは歩いて入ることができる。
水面を挟んで上からのぞく人と、下から見上げる人。プールに潜っているような体験。
いちばん大人気の作品だったと思う。
“ブルー・プラネット・スカイ Blue Planet Sky”
ジェームズ・タレル James Turrel
天井に穿たれた矩形から、空を眺める。部屋の四方に配された背の高いベンチ。
入口のドアが閉まると、美術館内の喧噪は完全にシャットアウトされ、静寂に満たされる。
みんな静かに座って眼をつぶってたりしてまどろんでた。
（本当はこんなにまわりが黒くなくて、純白。写真、むずかしい。）
“雲を測る男 Man Measuring the Clouds”
ヤン・ファーブル Jan Fabre
美術館中央の円形展示室の屋上に設置されている彫刻。シンボリック。
全体的に、とてもいい美術館。まちなかにあって、アクセスも良いし。円形でどこからでも入れる、まちに開かれた美術館、というコンセプトがちゃんと実現できている。休日だったのもあって、いろんな年齢層の人々が訪れていてとても賑やかだった。現代美術の美術館ではあまり見ないような多彩な顔触れで。
建物は敷地の中央に配置し、敷地の余白がすべて芝生の庭になっている。敷地は二方向で道路に面していて、フェンスもないのでとても開放的。
内部では、建物中央に配置する矩形の諸室と、円形の輪郭線との間の余白が、ロビーあるいは庭の延長のような空間になっている。
円という完結した形状の輪郭が、建物内外においてそれぞれ、境界の機能を成している。
明確な強い形状でありながら、ガラスという透明な素材でできているために、内外が連続されたものにもなっている。
区切りながら、かつ、つなぐこと。
