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 ハンヌ・ライアニエミ “量子怪盗”



“THE QUANTUM THIEF”
 2010
 Hannu Rajaniemi
 ISBN:4153350060



量子怪盗 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)

量子怪盗 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)






 帯と解説で「ニュー・スペースオペラ」と書かれてる上に『量子怪盗』なんてタイトルなのでどうにもB級感が漂うんだけど、SFとしておもしろかった。“SFとして” というのは、物語進行とかキャラクターを優先しすぎてSF要素が単なる付け足しとか舞台説明だけになってしまわず、世界や出来事ときちんと絡み合っている、という意味で。
 とは言いながらも概要説明としては、巻末解説で書かれている “シンギュラリティ発生以降を描いた、ポストサイバーパンクなニュー・スペースオペラ” という表現はわかりやすいし、端的に妥当してると思う。
 特徴は、遠未来ガジェットのハイパーぶりと、アニメ化適性の高そうなキャラクターたち。極限的に戦闘改造され無双に強力なボクっ娘戦士とか、衛星軌道上から超絶兵器で支援してくれる女性人格の宇宙船とか。とりわけ女性登場人物たちはそれぞれ異なる魅力で描き分けられていて、ほぼ全員戦闘能力が異常に高かったりで、キャラ主張大。
 そして、酒井昭伸による翻訳が作風全体を完璧に補強している。ルビの多用とか特殊な用語に対する漢字の選び方とか、酒井訳の醍醐味全開。

 即刻、拡張大脳皮質メタコルテックスをオンラインにし、主観時間を加速させ、考える時間を確保すると同時に、戦闘内閉のベールを引きかぶる。
(〈ペルホネン〉。透視)
 はるか上の軌道から、宇宙船が弱い相互作用をするエキゾチック粒子をバルコニーへと注ぎこんできた。

フィンガーペイントで空気に線を描くような感覚とともに、光る軌跡が空中に伸びていく。それぞれがボース=アインシュタイン凝縮だ。エネルギーと量子ロジックを帯びた五つのqドットは、ミエリの精神の延長となり、実体を持たない拡張肢と化した。


 このあたりの戦闘シーン描写は特に良かった。
 無制限的にテクノロジーが進化しているような世界で、超常的に武装したキャラクターがどの程度まで何を可能としてるのかもよくわからないという状況でおこなわれる戦闘。いろんな創作作品のキャラ同士で戦ったら誰がいちばん強い?的な雑談スレッドにもエントリーできそうな。でもこの作品世界では、主要登場人物たちの上位にさらに強力なある種の神的存在たちがいて、基本的に彼らの抗争が世界全体の裏でいろいろ影響している、っていう構図。
 進化と跳躍を経た遠未来世界、それに応じたテクノロジーやガジェットこそがある意味この小説の主人公だと言ってもいいぐらいなんだけど、そういう遠未来SFでは往々にして本来の登場人物たちが存在感薄くなりがちなところ、この小説の場合は全然負けてないキャラ描写がされてて、両方併せてとても濃密な感じになってる。
 
 あと、「不死性」の扱われ方がなかなか斬新だと思った。単に不死なんじゃなくて、活性状態と不活性状態を交互に繰り返していくというのが。











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