これはすごく良かった。
3D映画なんだけど、「記憶障害」っていうことを3Dでうまく表現していて、映画手法としておもしろかった。
(とりあえずまずここ読むといいと思う。→ 破壊屋「3D映画の進化の歴史」 http://hakaiya.com/20130314/movie-45891 )
交通事故による脳損傷で記憶障害を負った実在のミュージシャン GOMA を描いた映画。
どういう記憶障害かっていうと、もう電車の乗り方もわからず、友人知人の顔もわからない、新しい記憶も抜け落ちていってしまうし、事故以前の自分が演奏している映像を見てもぜんぜん思い出せない。
……という人物に対してこの映画がおこなっているのは、「現在のライブ演奏シーン」を3Dで手前側に流し、「事故以前の記録映像」をその背景に2Dで流すという表現。つまり主人公の現在の状態と、失われてもう思い出せなくなってしまっている過去の記憶というのが重なり合って映し出されているわけだ。
本物のライブ公演でバックグラウンド・スクリーンに映像流す、っていうのと一見似たような関係と言ってしまえなくもないんだけど、でもぜんぜん違う。3D映像にはカメラアングルや画面転移というものがあり、それは現実の主観的な視覚体験とは異なる。映画っていうのはあくまでも「編集」されているものであるというところに意味を持つはず。ここにあるのは3D視覚と2D視覚の二重性なんじゃなくって、あくまでも「3D映画」と「2D映画」の二重性。視覚の違いではなく、表現としての違いだ。
- 基本的にこのワンアイデアだけで成立してる映画なんだけど、いろいろな要素が奇跡のように噛み合って絶大な効果を発してる。
- 事故前のミュージシャン生活で撮っていた映像がたくさんある。日本各地や海外で演奏している姿が記録として残っていて、それらを最大限に活用できたからこその映画。
- ライブシーンの3D親和性。暗いスタジオ内に演奏者と楽器だけが3Dで浮かび上がっている。限定された空間での限定された要素の立体感というのが、3D映像として効果が高い。ハイ・スペクタクルなエンターテイメント映画じゃなくても3Dに向いてる映像があるんだ、っていう新鮮な感覚。
- 主人公はディジュリドゥ奏者。ディジュリドゥっていうのはオーストラリアのアボリジニの管楽器なんだけど、とても細長い形状をしていて、それが観客に向かって突き出されてくるっていうのもまた3D映像に適してる。
- GOMA & The Jungle Rhythm Section っていうバンドで演奏してて、ヴォーカルなし、メインはディジュリドゥであと3人はパーカッションとドラム、っていう編成。ディジュリドゥの低音とリズムセクションの多重に繰り出すビートとがひたすら続いていくトリップ感がものすごい。「現在・ライブ」/「記録・記憶」という単純明快な構成で特別な脚色やドラマ要素もないシンプルな映画に、パーフェクトに合致している。
- で、こういうのってこの映画だから成り立ってることであって、同じやり方で誰かが別の作品をつくるなんて絶対無理だよね。そういう意味でもう唯一無二、この作品でしかあり得ない体験だと思う。
- 特にすごいと思ったのが、交通事故の瞬間とそのあとの主人公の主観体験を記録として再構成しているところ。事故後の「現在」の映像とのオーバーラップにより「記憶の再現」ということを表現できている。なかなか衝撃的で、この手法ならではの表現になってた。
- 特にすごいと思ったのが、交通事故の瞬間とそのあとの主人公の主観体験を記録として再構成しているところ。事故後の「現在」の映像とのオーバーラップにより「記憶の再現」ということを表現できている。なかなか衝撃的で、この手法ならではの表現になってた。
- メッセージ的なものも良かったと思う。
- 極言すると「生き返った気になってまたがんばる」みたいなことで、なんかこうあっさりまとめてしまうとクリシェにも程があるレベルなんだけど、いや、通して流れで見ると説得力あった。
- そういう前向きで希望を感じさせる雰囲気が全面的に覆ってるなか、実は一個所だけ、不穏な未来展開の可能性に触れたところがある。症状自体についてのことというよりも、「家族でがんばって対処していく」っていうスタンスとポジティヴネスの基本前提を崩壊させかねないという意味での不安要素が。これにまったく触れずに完全に美辞的なものだけで固めることもできただろうに、そうしなくてきちんとあの台詞を入れてるっていうのがとてもリアルだし、それがあってこそ逆にポジティヴネスの重みが増していると思う。
一応ジャンルとしてはドキュメンタリーということになると思うんだけど、ノンフィクションとか報道とか記録映像とかそういうんじゃなく文字通り個人の「ライフストーリー」が完璧な手法で描かれているという点で、これは「物語」を描いた映画に他ならないと思う。
公式サイト:http://flashbackmemories.jp/