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 イーガン “白熱光”



“Incandescence”
 2008
 Greg Egan
 ISBN:4153350125







 容赦ないハードSF。小説というより物理学の演習みたいな本。
 でも物語としては実はわかりやすいと思う。
 奇数パートでの探索対象が偶数パートの舞台/種族であり、他方、偶数パートは危機と知識に対してイノセントな状態からの漸進的な向上を描いている感じ。(ただ、両パートが最後ひとつに収束する……と思いながら読んでたら結局そうならなかったりはする。)
 物理学・数学をフルに駆使しながら展開されるわりには、できごととして何が起こってどうなるのかという点については掴みやすい。
 物理学の側面は順を追って自分自身でトレースすべきではあるのだろうけど、そのあたりを未消化にしてても物語は理解できる。
 それはたぶん、言いたいテーマがはっきりしてるからだと思う。


(以下ネタバレ含む)


 テーマとしては、バルジのような過酷な環境下においては、科学思考こそが必要だ、といったような。〈箱舟〉の巧妙な構造自体よりも、〈居住者〉に対して秘かに与えられているこの「危機対応力」の方が〈箱舟建造者〉の遺産として上位にあるはず。
 こういうスタンスはイーガンの作品でずっと通底してたと思うけど、『白熱光』はこれまでになく焦点当ててる。


  • 巻末解説で、イーガンが語る「この小説に関するよくある4つの勘違い」が紹介されてるけど、これってふつうに読むとあっさり嵌まり込むと思うな。
    4番目については、スプリンターが孤高世界の起源だというのは p400 とか p322 などでわかる……と思う。
  • 理解のポイントは(というか、躓きやすいところは)、
    偶数章の舞台〈スプリンター〉は惑星サイズの天体ではなく、もっとはるかに小さいものであること。だから〈スプリンター〉自体は、地球のような大質量起因の重力は持たない(無視できるレベルにある)。
    しかし一方〈スプリンター〉は地球が太陽を周回するように〈ハブ〉という大質量天体を周回しており、〈スプリンター〉内での「重さ」はこのことから生じている。
    しかも〈ハブ〉は単なる惑星や恒星ではなく、超大質量のカー・ブラックホール。だからこそ相対論効果が確認でき、〈居住者〉たちが一般相対論にたどり着くことができた。

    自分としては作中冒頭の「地図」でまず混乱させられた……。あの舞台の形状と方角の対応がよくわからなくて。楕円球の内部をトンネルがくまなく網羅してる世界、ってのを最初に確実に知っておかないと難しい。独特の方角用語は、楕円球の三次元方向での軸それぞれに対応している。









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