::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

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 ハイスイノナサ×大西景太 “地下鉄の動態”, “reflection”









 これすごい、すごいよ…!
 霞がかった日常の微温から、一気に目が覚めるこの感じ!
 もっともっと広く知られていいと思う―― そもそもなんで今までこれ見逃してたんだ俺。もう自分のセンシング機能が完全に無力だったって言わざるを得ない。


 ……えっと、とにかくまずPVを再生してほしい。
 映像(大西景太)+音楽ハイスイノナサでセットの作品。
 一般に、音楽を体験するあり方のなかでもっとも根源的なものはライヴ演奏の視聴という形式だって気がするけど、この楽曲の場合は、動画を伴ったものこそが完成態。それは音楽の体験形式をひとつ上のあたらしい地平へ拓かせるようですらある。冒頭から音要素の視覚化がほんとよくできてて、ポピュラー・ミュージックとヴィジュアル・アートが一心同体、不可分な総合として昇華されてる。



 これ、俺のなかでは端的にものすごく “SF感” があるんだよね。自分的SF大賞2015をこの作品に捧げたいほどに。
 ……まだ3月なったばかりだし、そもそも2015年に製作されたものじゃないし、“SF” なる語を無条件全肯定単語みたく前提して当てはめてるのが自分以外に伝わるのかってのはあるけど、そんなことはどうでもよくて。音とシンクロしたこの映像の、視覚と聴覚の恍惚・愉悦、俺が思うSF感なるものを完全に体現し得ているんだ。
 図形が動力学的モーションで描画されていくだけの抽象動画なのに。進路に沿った運動であるというその展開、随伴する音の起伏、そういったものが合一される結果として、物語性を確実に感じ取ることができる。
 とくに好きなのは 02:01からの分解-再統合、それと 02:33 - 02:55 あたりでのホワイトアウト〜球体出現〜スパイラルのシークェンスなど。
 よく、「作画がかっこいいアニメ」とか「戦闘シーンがかっこいいアニメ」とかあるじゃん? ああいうのに通じるものもあるんだけど、もっとなんか純粋数学的快楽、みたいな? ←これはどっちかというと語感を優先して言ってる面もあるけど、要するに譜面のヴィジュアリゼーションって意味で。演奏映像とはまったく異なるかたちでの、音楽の抽象的視覚化。*1


 これほどの作品がまったく世のなかにスルーされてるなんてことはあり得なくて、2012年第16回文化庁メディア芸術祭でエンターテインメント部門新人賞を受賞してる。
 で、そのときの講評テキストが、作品説明として過不足なく的確。

贈賞理由
 イントロにおける、一つひとつの「音」と「動き」を対応づける独特のマナーにまず目を奪われ、それが次第に「音楽」と「映像」 との対応に発展していく様子を、ただじっと観察してしまう。視覚と聴覚の結合があまりに緊密なので、音楽が視覚化されているのか、あるいは映像が聴覚化されているのか、よくわからなくなってくるほどだ。音楽にあわせた映像、という主従の関係ではなく、両者を正確に一対一に対応づける、その精密さにおいて、 徹底的に突き詰められている。その徹底性が作者独自の感性をより明瞭に浮かび上がらせている。

http://archive.j-mediaarts.jp/festival/2012/entertainment/works/16e_Haisuinonasa/



 もうひとつ。


 こっちはまた違う方向のミニマル。……といっても音は豊穣だし、実-身体での具体的な表現だし。ではなぜミニマルだって思うのかというと、たぶん無駄がなく切り詰められて成り立ってるという意味で。
 “地下鉄の動態” よりもこの “reflection” の方と先に遭遇したんだけど、残響レコードだからポストロックかなー、みたいな安易な先入観で見始めたら、序盤の音の展開であっさり覆され掴み取られた。
 構築感。この類似体を探すとするなら、Cornelius の “Point” みたいな。
 ヴォイスとビープ・サウンドの使い方がとても特徴的。


 ふたつのPVは異なるスタイルだけど、どちらも挑戦的でありつつポップ、シャープネスもあって。細かく精巧、かつ大胆。総体として先進、尖鋭。



 

*1:こういうのが音楽PVでいままでまったく試みられてなかったわけではないということは認識している。






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―Angela Mitchell