タイトルは「ジャジューシュカ」と読む。今堀恒雄のユニット。
音楽を生業とする者が、日々、音楽と密接で不可分な生活を過ごし、ジャズを、クラブミュージックを、ロックを、あるいは聴き、あるいは演奏しながら、あらゆるジャンルのあらゆる音楽をその身に染み込ませていく。そのような者が、蓄積された情報をあますところなく編集し、抽出した結果が、これだ。
この音の前提となる背景群を知らずとも、そのように一個人によってジャンルを縦断し抽出された音を与えられたひとつの結果として、我々は音楽の広い地平を享受することができる。どんな世界にも歴史というものがあり、さまざまな実験が先人に試み尽くされた果てに現在があるとするならば、まったく新しいものをつくるには、先行するそれらすべての事例を知っている必要がある*1。しかし広大な世界を直接知る余裕がないのであれば、このようにすぐれたフィルターが既にあるのだから、それを用いれば、歴史の先端がどのようなものになっているのかがわかるし、それ以前の世界がどのようなものであったのかを垣間見ることもできる。
unbeltipo “joujoushka”はそういう音のひとつだ。
この音に対して好きか嫌いかは問題ではなく、現在までに存在する膨大な量の背景が、洗練された眼を通して高度に編集されるとどのようなものになるのかを教えてくれる点で一聴に値する。現時点での音楽のひとつの到達点。...褒めすぎか? 大絶賛するつもりもないのだけれど。到達点=終点というわけでもないし。無数にありえる切り取り方のひとつにすぎない。そして、ジャンルという形式をまたいでできた音であっても、それがまた新たな形式になりうる。ボーダーレスを謳うことがまたひとつのスタイルとして固定されるというのも、何度も繰り返されてきたことだ。
とはいうものの、M-1“Method of panic”5分26秒の、多様な要素のめくるめく、予想もしない展開にひたっていると、現在手に入る最高の食材を最適な料理法でつくられた珠玉の逸品を味わっているような気分になる*2。
M-1“Method of panic” 途中から壮大な感じに。
M-2“D.V.Bleach” ロック。ひたすらかっこいい。
M-4“Vertigo Banking Corporation”