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 Sophy Rickett “(S/T)”(2005)



Sophy Rickett (Photoworks)

“Sophy Rickett”
 2005, Steidl
 Sophy Rickett
 ISBN:3865210880





 イギリスの写真家。夜間撮影した風景写真が題材。
 この人の作品は今のところ大きく二つの手法に区分できる。
 まず、写真の中に占める闇の比率が圧倒的に高い写真。たとえば、写真全体を覆い尽くす闇のなかに、スポットライトのように街灯で照らされた部分的な領域のみが浮かび上がる。これらの作品を遠くから見たら、黒を基調とした抽象画のようにしか見えないだろう。しかし近付いてよく見てみると、それは、闇のなかに細長い線状の断片として浮かぶ野原とその上に立つ小さな人影だったり、あるいは背後にわずかな輪郭のみによって示される森を従えたサッカーゴールであったり、所狭しと立ち並ぶ木立だったり、さまざまなかたちで闇から切り取られた風景が撮られていることがわかる。いずれの場合においても、図と地の明度差はごくわずか。そうした断片からでも、人間の眼は全体的な風景を認識することができる。その点では現象学的な手法なのかもしれない。
 もうひとつの手法は、逆に図と地が明瞭な差をもって構成される。“Twelve Trees M40”のシリーズとか、“Via di Bravetta”、あるいは各所で撮られた“Landscape〜”のシリーズなど。これらの作品に共通するのは、色相の単純化された対比。たとえば前面の不自然なほど緑色に塗り込まれた森と、背面の不穏な暗雲を思わせる夜空という組み合わせ。または、おそらく早朝であろう澄み渡る青空と、まだ陽光の届かない森の黒い輪郭という二色の構成。
 どのような技術によってこれらの写真が撮られているのかはよくわからない。だけど彼女の目的は、複雑な世界をきわめて単純な対立に還元して示すことにあるのではないかと思う。たとえば夜というものは、昼間はっきりと見えていたさまざまなものを、ほとんど覆い隠してしまう*1。彼女の写真は、背景がそのように夜によってことごとく隠されたなかから、ある部分のみを選択的に取り上げる。そのように抽出すること、スポットライトを当てること。そこには意味作用がある。あるいは色相を単純化された写真の場合。そこでは色の区別が背後に押しやられ、対象のかたちのみが浮かび上がる。余分な情報をすべて削ぎ落として、ただかたちのみが。
 Andreas Gursky のような、解像度が異常に高く、画面にあらゆるものが並置されてどこまでも埋め尽くされている写真とは、ちょうど真逆にある。Sophy Rickett の写真も実は高い解像度で写されているけれど、彼女の場合には、画面のほとんどを闇で隠してしまうか、あるいは色の階調をぐっと下げてしまうという操作がある。わずかに認識できる対象物を眼にしながらも、そのうしろに隠された膨大な背景世界の存在を、漠然と意識させられる。




ここで写真見れる。ここに載ってる写真だけでも、充分雰囲気はわかると思う。
http://www.fotonet-south.org.uk/rickett/

*1:同じことは、雪によっても可能かもしれない。






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―Angela Mitchell