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 西島大介 “アトモスフィア”

アトモスフィア〈1〉 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション) アトモスフィア (2) (ハヤカワSFシリーズJコレクション)










1..

ノローグが繰り返される。

「ふざけんな」
 なんてことを決して
 わたしが言わないのは
 あらかじめ全てを
 赦してやってるからだ。


 わたしが
 わたしのために。

あらかじめ全てを赦しているということは、世界に対して何も期待しない態度のことなのだろうか。
赦すか/赦さないか、という選択を迫られる事態が起こるとして、
そうした事態に対してあらかじめ、赦す方を選択している。どんな事態であったとしてもそのように選択すると決めている。
だからネガティヴな事態が生じたとき、それらは常に受容されることになる。自動的に。


どのページでも、主人公のドライな視点は維持される。状況を客観的に見下ろしていて、無気力というほどではないけど...目的を持たず、拠り所を持たず、次々に変化して現れる出来事をただすべて受け流して。
状況が級数的に加速するインフレ展開のなかでも、微動だにせず。


この人の作品はいつも舞台設定が大きく違うけど、一貫したテーマを扱っていると思ってた。
無意味に思える、不活性の世界にあって、
無邪気にあるいは純真に、疑念を持たずに対向するまっすぐな主人公。およびその主人公を対になって補完する登場人物。
というのが今までの作品。


ところがこの本の主人公は正反対。
世界に対抗しようとなんかしないし、思い悩むこともない。


どんな世界も否定しない。その代わり、
世界に何も、期待しない。


けれども結果として

 今やわたしは
 無敵。
 遠くから
 音楽が聴こえる。


2..
グラフィックについて。

画面を空白が占める比率が多い。
画面領域を定めるコマの線と、文字だけになったり。

たとえばまず1巻78ページ。あるいは2巻の161ページ以降。
単に文章の内容だけじゃなくて、その配置・構成が特に考えられて表現されている。
傍点で示される《分身》、それらが増大し、記号が波動となって、
さらには星空に。


3..
収束。(拡散?)
最終的にはとてもあっさりとしたオチが。
というかすごいなこれで締めるのは。


「アトモスフィア1」「アトモスフィア2」
 西島大介
 早川書房






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell