必読。
フォントを扱うときだけでなく、ヨーロッパ圏の文字を読み書きするときの一般的常識として。
細かい話はいろいろあるのだけどそれはともかくとして重要な点は第1章、自然な欧文書体と不自然な欧文書体の差はどこにあるのか、というところ。
(というかそもそもそうしたことを意識しているのかどうかということから始めなくては。)
なぜ〈A〉という文字を構成する線はそれぞれ太さが違うのか。
欧文書体は、活版印刷時代の金属活字、さらに遡れば石碑文字に端を発しているが、活版文字も石碑文字も製作にあたっての下書きは平筆書きの文字が基準となっている。欧文書体を細かく見たときにわかる微妙な線の太さの違いは、平筆書きのストロークによって説明できることだ。同じことはサンセリフ体の書体にも当てはまっていて、一様な太さに見えてもよく見るとローマン体と同様な線の太さの構成になっている。そのように文字を実際に書くときの身体的な動きに起因する要素に加え、文字組みしたときの見やすさや大文字・小文字の区分けなど文字の使われ方での条件にも左右されながら、さまざまな書体の形態変遷を経て、現在のデジタルフォントに行き着いている。
文字を使用する大多数の人々はとくに意識もしないけど、それは厳然と欧文書体を規定するルール。
たとえばフォントをつくるとき。文字レイアウトを組むとき。あるいはメールなどを書くときでさえも。
それが自然に見えるか不自然に見えるかは、背後に連綿とつながる書体の歴史を反映したものであるかどうかで明確な差となってあらわれる。
書籍、新聞、街中の看板など、日常での実際の使用を通してそれらは醸成される。
そして日本人が欧文書体を扱うとき、そのように無意識にある欧文書体のルールを踏み外していることが多い。
逆に外国で日本語文字が扱われているときに、漢字の止めとか文末処理がおかしくて不自然なものを見かけたりすることがある。それは彼らにはわからなくても、日本人には一目でわかってしまうことだったりするのだが、それと同じような不自然なことを自分たちもやってしまっているわけだ。
アルファベットなんて漢字に比べれば単純、なんて思ったら大間違い。
というように第1章を読んで目からウロコという感じだったのだけど、
同時に、今まで見ていた世界が実は間違いだらけだった、みたいなことに気付いて背筋が凍る。
とくに気を付けなければいけないな、と思ったところをメモ。
[引用符の使い方]
国によってさまざまに違う。だけど、「"」だけは、あり得ない。(google検索では必須だが。)
[文字の強調]
つい大文字・引用符の組み合わせを使ってしまいがちだが、基本的にはイタリックにするだけの方がよい。
[ハイフン、ダーシ(ダッシュ)]
ハイフンとダーシの使い分けは、Berlin−Baden-Baden(ベルリン〜バーデンバーデン間)という例がわかりやすいか。
半角ダーシ en dash、全角ダーシ em dash という使い分けもあったりする。
[小数点表記・千桁表記]
「.」を使うのか「,」を使うのか。これも国によって違う。こんなの旅行に行ったときもぜんぜん気付かなかったよ今まで。
あらためなければならないことが、たくさんある。
「欧文書体 その背景と使い方」
小林 章
美術出版社