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 “PETER TOSH STEPPING RAZOR RED X” “REBEL MUSIC THE BOB MARLEY STORY”



レベル・ミュージック [DVD] ステッピング・レイザー [DVD]











 ピーター・トッシュ、ボブ・マーリー。ふたりの伝説的レゲエ・ミュージシャンの伝記DVDを見てみた。
 このふたりにバニー・ウェイラーを加えた3人による THE WAILERS の“Catch A Fire”(1973) が、レゲエを世界に知らしめた端緒とされている。1974年にオリジナル・ウェイラーズが解散した後は、それぞれが独自の活動を歩み、ボブ・マーリーは世界的なスターに。ピーター・トッシュは過激な思想を強めながら孤高のカリスマに。
 “STEPPING RAZOR RED X”は、ピーター・トッシュの肉声テープを使いながら、悲劇的なその死を中心にして構成されている。“REBEL MUSIC”の方は、ユニークなエピソードを散りばめて全体としては楽観的な雰囲気で、バランスよく伝記の体裁が取られている。(ボブ・マーリーの場合は、ドルトムントのライヴDVDが、彼の死に焦点を当てた構成になってた。)
 そのようなDVDの構成に依るところもあると思うけれど、ふたりの進む道は対照的。対比的に見ようと思えばいくらでも見れる。
 たとえばジャマイカで開かれたピース・コンサートで、当時激しく政争を続けていた2大政党の党首を握手させるボブ・マーリー。一方ピーター・トッシュは同じステージで、平和などという言葉は死者に向ける言葉だと吐き捨てる。どちらもラスタファリアニズムを自己の基盤にしながら、ピーター・トッシュはシリアス、厳格で妥協を知らず、ボブ・マーリーはとにかく普及させることを目的にしているように見える。
 あるいは、ガンに冒されつつも世界ツアーを続け、セントラル・パークでのジョギング中に倒れてやがてマイアミの病院で命を終えるボブ・マーリー。ジャマイカでラスタのラジオ局をつくろうと活動する最中に、自宅への襲撃者によって友人たちと共に銃撃を受け殺害されるピーター・トッシュ。
 彼らの死にこそ、辿った経路の違いが象徴されている。
 ボブ・マーリーは、白人の父親と黒人の母親との間に生まれた出自をもっているのだが、彼の死因となったメラノーマ(黒色腫)は、黒人にはまず発病することがないとされており、ラスタを信奉する彼の半身に流れる白人の血によって起こされた死、という皮肉な構図が言及されている。運命的な死。これに対しピーター・トッシュの死は真相がはっきりせず、殺害者はオフィシャルには強盗であったとされているが、政治的な背景を仄めかす関係者もいたりして、結局のところは不明解。しかしいずれにせよ、ジャマイカ人に殺されたという点において悲劇的だ。白人(の血)に殺されたボブと、同じジャマイカの黒人に殺されたピーター。
 その違いが、彼らのもっとも身近な女性たちの態度にあらわれる。リタのあきらめ(「神様のもとに迷わず行きなさい!」)と、マーリーンのあきらめきれなさ(「あえて悲劇の起こった家に住み続けている」)。


 それにしても、このように世界規模で共感を得るミュージシャン。というのはもはや現代ではあり得ないのだろうか。...あまり想像できない。そんなみんなで同じものに熱中しなくても。とも思うし。だけどこうして映像で見ると、回顧的に共感することもなくはない。リアルタイムで体験しているのではないので、いくつものフィルターでバイアスがかかっているだろうけれど。
 もし仮にある日、どうしても宗教をひとつ選んで信仰しなければならない、という理不尽な強制が課せられることになったとしたら、
 まあ、ラスタかな。と、レゲエのDVDを見るたびに思ったりする。
 教義がどうとかではなく(ラスタって宗教というよりはスタイル、だと思うが)、このようにファナティックに何かに固執するという姿勢がまぶしく見えるのかも。











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―Angela Mitchell