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 西島大介 “世界の終わりの魔法使い II 恋におちた悪魔”

恋におちた悪魔----世界の終わりの魔法使いII (九龍コミックス)














 なんか2巻が出てた。1巻できれいに完結してると思ったんだけど。“ディエンビエンフー”も続きが連載されてるというし...。気を抜けない。
 2巻目だけど、内容は1巻より過去にあたる。時間にして1000年前。1巻で「世界を滅ぼした大魔法使い」として封印されていたサン・フェアリー・アンの、その封印されることになった顛末がひととおり描かれている。
 〈人類〉と〈魔法使い〉の大戦の真っ只中という時代なので、第一話からスペクタクルな戦闘風景が連続する。地球にひとり暮らす少年のぬるいシーンを織り交ぜながらも、全体としては動的でスピーディな印象。破滅とか戦いとかと隣り合わせのぬるさ、という西島大輔のいつものテイストから比べると、戦いの方に重心が大きく寄っていて特異かもしれない。
 話自体はそんなに複雑ではなくて、全速で駆け抜けて一気に終わる。爽やかに、余韻を1000年後の1巻へ引きつつ。

 どちらかというと背景の舞台設定の方が興味深かった。何よりも、冒頭に折り込まれた地図に想像をそそられて。

 まず人類の宇宙がある。遙か遠方には「時のない世界」が背景のように拡がっている。(つまりここでの宇宙は「世界の全て」ではなく、果てがあって、宇宙の外もある。)
 このふたつに挟まれて魔法星団の領域があり、これに相対した前線に「発達した科学団」「最後の地球」が位置する。
 最後の地球:防衛柵で囲われていて、不可侵条約によって戦闘禁止区域とされる。“機械化されてない唯一の地球”であり“7番目の母星”。
 魔法星団:“可視宇宙の果て”“7つの星と1つの彗星からなる”。魔法星団の魔法使いたちは姿かたちは人類とほぼ同じだけど、魔法を使い、異質な文化・文明を持っているために、〈人類〉に対置して〈魔法使い〉と呼ばれている。(魔族や王族など特殊な血を引く者たちもいるけれど、でも基本的には人類から分岐して行き着いた種族なのではないかと思う。ゴーレムの起源に触れた台詞に示唆されているように。)
 地球の意味付けがよくわからない。「最後の」とか「唯一の」とか呼ばれてるけど、地球と呼ばれる惑星がいくつもあってそのうちのひとつ、という意味なのか。地球型惑星の一般名称として言っているのか、それとも人類が発祥した地球をコピーしたものなのか? その場合ここに出てくる地球はオリジナルなのかコピーなのか。7番目の母星、というのも、どういう意味? 魔法星団が7つの星から成るのと何か関係が?
 もうひとつものすごく気になるのは、これらの舞台の脇に「暗黒の海」と示された場所があり、空間を切り取ってできた穴に湛えられた黒い水、のような絵が描かれていること。これについては本編中ではまったく触れられていない。でも非常に気になるヴィジュアルをしていて、もしかすると、本編で重要な位置づけを与えられている「影」という魔法(“思い出から複製を無限に生み出す力”)と何らかの関係があるのかもしれない。
 地図に示されたヴィジュアルはあくまでも比喩的なものとして描かれている可能性もあるけど、これを見るとどうも絵の通りのものでこの世界ができているように見えるし、その方が想像を喚起させられる。

 キャラクターとか物語(プロット)ではなく、舞台設定・世界構造の方に魅力があるという点において、これは(いままでの一連の作品とは違って)明確にSFに区分されるものだと思う。逆に言うと、SFというのはそういうものだと思っている。人間模様を描くこととか心理描写とかが目的なのではなくて、異質な世界を、そしてその世界を成立させるための構造を、詳細に組み立てて提示すること、そういうものだと。(そしてそこには意味の連関があるはず。読み解くべき意味、多様に解釈可能な意味が。)
 どちらがいいとかじゃないし、この本も別にキャラクター描写がつまらないとかいうのではぜんぜんないし*1、それだけ前作よりも背景説明に多くが割かれている、というだけのこと。あとがきにあるように、1巻でつくった世界にはどんな歴史があってどういう戦争があったんだろう、という作者自身の興味からこの2巻が生まれているので、当然ではある。

 さて、あとがき見るとなんかIIIもつくりそうな感じもあったりする。



*1:少佐とか。まあおもしろいのは主にその名前なんだけど。というかこの名前、入力できない...。






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell