“Black Hawk Down”
Director : Ridley Scott
US, 2001
0.
1993年、ソマリア内戦に介入した米軍が実際におこなった軍事作戦の一部始終を描いた映画。
この作戦の結果、米側は19人の兵士が死亡し、ソマリア側は一般市民含む1000人以上が死亡したとされる。米軍強襲用ヘリコプター “
1.
いろいろレビューを見るかぎり、数ある戦争映画のなかでもこの作品は特に、戦闘を非常にリアリスティックに描いているとの評価が高いようだ。
娯楽映画であれば当然加えられるだろうドラマ的要素もほとんど見られないし、明白なテーマや強いメッセージもない。
実際、犠牲者の多さとその後の政治的帰結という点で見ればこの作戦の敗北は明らかなのだから、仮に物語として美化しようとしたところで、やりきれなさを払拭することはできなかっただろうと思う。
だからこの映画は、華々しい演出と無縁の淡泊といってもいいような描写で進んでいく。といっても戦闘自体は激しいもので、その臨場感は余すところなく伝わってくる。
全編に渡り、リドリー・スコットならではの抑制された色彩のトーンが美しい。
この映画の大きな特徴、そして真っ先に為されるだろう批判は、アメリカ側の視点に偏りすぎているということだと思う。戦争映画は中立的に描くべきなのかどうか、というのにはいろいろな意見があるだろうし、双方の視点を平等に描くことで成立している映画もあるだろう。けれどもこの映画の場合では、ソマリア人側の視点を排除していることが効果的に働いていると思う。
たぶん “ブラックホーク・ダウン” を観た者すべてにとって、「敵」側であるソマリア人たちは、あたかもホラー映画におけるゾンビの大群のように映るだろう。そうした描写は非常に自覚的におこなわれているし、また、「そう見えてしまう」ということを観客に気付かせるようにつくられているとも思う。たとえば、敵のまっただなかに墜落したヘリのパイロットが、押し寄せる民兵たちに応射しつつも次第に弾薬も尽きていって……というシーンなど、まさにゾンビ映画での恐怖とまったく同質だ。
そして当然のことながら、視点を反転させればその逆に見えるはず。漆黒の威圧的なヘリで降下してきて重火器を撃ちまくる米兵が「彼ら」にどう映るのかだって、想像に難くない。先程のシーンの墜落した米兵も、ソマリア人側の視点からすれば、墜落させたはずなのにまだ息の根が止まらずにこちらに撃ってくる化け物のようにも見えることだろう。
戦争とは「敵 / 味方」という区別を導入すること以外のなにものでもないということを、あらためて示しているような映画だと思う。
2.
テーマが本当に語られていないかどうかについて言えば、「理想主義者」と言われているエヴァーズマン軍曹と、何度も死線をくぐってきた
ただし、「人道的介入」というものは、簡単に語れるものでもない。今この瞬間にもリビアでおこなわれていることに対して誰も簡単な解を示せないように。だいたい、ソマリア内戦は今もって終わっていないのだ。
3.
当初は、30分もあれば帰投できると見られていた作戦。
しかし
途中からどう見ても作戦失敗の色が濃厚になっているのだけど、
突発事象に対して求められる即座の判断、現場と指令部あるいは現場内での意思疎通の齟齬、想定を甘く見積もったことによる装備不足……など、非常事態における混乱一般というものがよく描かれていると思う。
※なお、このエントリで無駄にルビを多用しているのは、伊藤計劃リスペクトです。
IMDb : http://www.imdb.com/title/tt0265086/
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