::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

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  “魔法少女まどか☆マギカ”









0.
 今年のアニメで最高峰に位置することに誰も異を唱えないであろう作品。
 「魔法少女物」という見掛けのジャンルや、キャラクターの画風にまどわされてはいけない。この作品が持つ物語としての完成度は、際立っている。構成や設定・演出はどれも計算し尽くされていて、アニメという形式が持つ手法を最大限効果的に駆使してつくられている。漠然と見ているだけでは気付かないような隠された表現*1も含め、情報量は膨大だ。にもかかわらず全体としては、確実に視聴者に突き刺さる強度ある物語へ収束している。
 何よりも、その展開の見事なこと。
 9話までは常に、前の回以上の驚愕を上乗せし続けながら加速。そして10話は、たったひとつの回でそれまですべての回の累積をも越える密度を備えている。(これがぜんぜん誇張ではないことは、見た人なら納得してくれると思う)
 終わって振り返ってみると、実は大筋ではまったく奇矯なことはしていなくて、最終的な解決部分も含め何もかもがそうあってしかるべき方向に進んでいたことがわかるのだけど…… 見ている最中には、毎回必ず予想を越える展開で進んでいくように思えるほど、引き込まれる。
 といっても、この種のアニメに対してまず見た目で引いてしまうようなクラスタの人に勧めるつもりはぜんぜんない。一般に広く膾炙して社会現象的なブームになることもないかなと思ってはいる。
 だけど── 映画・小説等ジャンルを問わず、現時点で何か〈物語〉としてひとつ理想のかたちに到達している作品を選ぶならば、あまねく古典やベストセラー小説をことごとく蹴落として俺はこれを挙げる。


(以下、ネタバレ含む)

1.
 この物語で起こることをもっとも短く要約するなら、「まどかが魔法少女になる」という一文になるだろう。
 ふつうの魔法少女物アニメと違って、この物語の主人公まどかは最終回に至るまで魔法少女にならない。このことは早い段階で視聴者にも察知され、おそらく最後の最後にまどかが魔法少女になることで物語が完了するのだろうと予想させて、事実その通りになる。
 作中世界の仕組みでは、魔法少女になることは「どんな望みもかなう願いをひとつだけ願うこと」と切り離せない。そして [願い→魔法少女→絶望→魔女] という仕組みがある以上、適切な願い方はたったひとつしかない。それは、世界の仕組み自体を覆すよう願うこと。そう願うことだけが唯一、絶望的な物語から解放される道なのだから。
 だから「まどかが魔法少女になり、世界の残酷な仕組みを終わらせる」というのは、物語上とても必然的な帰結なのだけど、しかしこのことが持っている意味については、また別の視点が必要になる。
 すなわち、ほむらといういわば裏側の主人公の視点が。
 というのは結局のところこの物語は、すべての魔女=魔法少女を救うという前に、何よりも、ほむらというひとりを救うものとして描かれてもいるからだ。
 

 どうして…… どうしてなの。
 何度やっても、あいつに勝てない……。
 
 繰り返せば、それだけまどかの因果が増える。
 わたしのやってきたことは、結局──


 それまでやってきたことすべてが無駄だった、という認識は、あまりに切実だ。
 いくつもの並行世界を渡り、可能な選択を試し尽くしてきた者にとっては、なおのこと。
 失敗を迎えるたびに最初からやり直せる能力を持っているのに、それでも絶対に不可能だと覚ってしまうほどの、決定的な絶望。
 そして、そんなほむらを救える可能性がある者がいるとすれば、「最後に残った道しるべ」であるまどかをおいて他にない。

 信じて。
 絶対に、今日までのほむらちゃんを無駄にしたりしないから。


 実際のところ仮にまどかが魔法少女にならず何も願わないままだったとしても、まどかがほむらの手を取りこの言葉をかけたことで既に、彼女は救われているだろう。
 ずれていった気持ち、通じなくなった言葉が、ここに来てついに繋がることになるのだから。
 
 ともかくも、まどかによって世界は書き換えられ、ほむらは新たな世界を生きることになるのだが、ここでようやく彼女は「いずれ魔女になる魔法少女」ではなく、このジャンルが本来定義するところの「魔法少女」になるわけだ。だからこの物語は「まどかが魔法少女になる物語」であると同時に、「ほむらが(本来の意味での)魔法少女になる物語」であるとも言える。
 新たな世界で彼女はもはや絶望に屈して魔女になることはないが、それは世界の仕組みが変わったことによるだけではなく、まどかの言葉が彼女のなかで生き続けているからでもあるはずだ。
 この物語は〈それまでやってきたことは決して無駄ではない〉と認めてもらう理解の過程をこそ描いているのであって、絶望に打ち克つ希望とは、そのように「誰かに理解されること」なのだと思う。









*1:たとえば魔女文字が記している内容、画面の隠喩的な構図、直接には表されない裏設定など。






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell