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 イアン・マクドナルド “サイバラバード・デイズ”



“Cyberabad Days”
 2009/2012
 Ian McDonald
 ISBN:4153350036



サイバラバード・デイズ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

サイバラバード・デイズ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)






 2047年。インドは数ヶ国に分裂しており、旱魃や男女比問題、戦争に翻弄されながらも、ITとAI技術の前進によりふたたび発展を遂げ始めている……という設定。
 7篇からなる短編集。

キーワード
 ・《タウン・アンド・カントリー》 AIの演じるソープ・オペラ(連ドラ)
 ・クリシュナ・コップ / ハミルトン法 / レベル2.8以上のAI / ジェネレーション3
 ・クンダ・カダール・ダム
 ・ヌート / ブラーミン

 とりあえず地図は添付してほしかったなー…。
 
 ハヤカワ版でのカバーイラストは自分の想像した情景とはちょっと違っていたけど、これを現実のインドにオーバーラップさせてイメージしてみるとそれはそれでおもしろい。
 Pyr版のカバーイラストも良い。こっちの方が街路に近いアイレベルなので、イメージに合ってた。
Cyberabad Days   http://www.pyrsf.com/CyberabadDays.html

 

 


サンジーブとロボット戦士 Sanjeev and Robotwallah 
ガジェットや物語展開はわりとオーソドックス。短編集の掴みとしては穏便すぎるような気もする。
ただ、ロボットの操作描写はリアリティあってよかった。
「日本製アニメ」のヒーローのように映っていたロボット戦士たちは、実際には倉庫のような兵舎から遠隔にロボットを操作する作業者にすぎず、死と隣り合うことなく毎日通勤する安全な立場にある。その操縦も、個人の身体延長のように為されるのではなく、むしろマネージメントというべきものに近い。



カイル、川へ行く Kyle Meets the River
ヴァラナシ。ガンジスの火葬場という、異邦人に対し典型的に衝撃をもたらす光景。
アルテラ。最新の直接没入型テクノロジーで体感される進化シミュレーション世界。
このふたつの “エキゾチックな” 情景が対比されて、最終的に後者の側が選ばれるという諧謔。本書全体のスタンスを表していると思う。



暗殺者 The Dust Assassin
隠れ家に住まう6人のヌートが順番に役立っていくというあたりが、御伽話テイスト。
最後のシーンのヴィジュアル・イメージが良かった。



花嫁募集中 An Eligible Boy
AI同士の恋愛に駆動されて用意される台本、によって導かれる人間の恋愛。
演者、脚本、被造物、主人……といった関係の倒錯。こういう要素が絡むSFは大抵おもしろく思ってしまう。



小さき女神 The Little Goddess
『こわれた腕輪』のような、よくある〈巫女の脱出〉的な構図なのかと思いきや、後半は予想を外れた展開となってなかなか良い。女神の座から逃れることがそもそもそんなに大変でもなかったりとかも、虚を突かれた。
“小さな奇跡とありふれた不思議の神” という概念は好き。



ジンの花嫁 The Djinn's Wife
塵で実体化する技術が新鮮。
クリシュナ・コップの使役するハンターキラーもかっこいい。空を埋め尽くすAI精霊たち。



ヴィシュヌと猫のサーカス Vishnu at the Cat Circus
この短編集の集大成のような内容。舞台設定やガジェットがわりと丁寧に説明されているので、これを最初に読んでおくと他の章もわかりやすいだろうけど、ラストの壮大なインフレーションはやはり最後に読むのがふさわしいはず。
p400あたりからしばらくは、どのページもドッグ・イアし続けてしまった。












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―Angela Mitchell