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 阿部和重 “クエーサーと13番目の柱”






クエーサーと13番目の柱

クエーサーと13番目の柱





タイトルは何か意味ありげでとても奇妙だけど、小説内の語句からそのまま来ている直截的なもの。
ハイテク武装した私的パパラッチ・チームの話で、怪しげな新人メンバー、観察対象であるアイドル、そして「願いは必ずかなう」という(ありがちな)自己啓発法則が絡む。
反社会的でセミプロフェッショナルなチームというのが『インディヴィジュアル・プロジェクション』に似た雰囲気で好み。

 

引き寄せの法則は投資などをする人が読むようなありふれた成功哲学です。そのスピリチュアルな面を虚構的に俗っぽく強調することで、何か違った意味を持たせられたらと意図しました。世間で紋切型として扱われている言葉や概念を更新することは、文学のひとつの役割だと思っています」
(著者は語る アイドルとパパラッチのノンストップ追跡劇 http://shukan.bunshun.jp/articles/-/1670

これは良いこと言ってると思った。
 

(以下、ネタバレ含むメモ)


  • 母の死を取り消すため “Q” の事故を計画しそれを阻止する、というのがニナイの目的のはずだったのに、いつの間にか “Q” とともに死ぬことが目的となっているのがよくわからなかった。
    読み返すと、途中からバラードの『クラッシュ』がオーバーラップしてきている。
    p153でのニナイの台詞。“ダイアナ・フランセス・スペンサーの死亡事故がなかったことになれば、ぼくの母の事故死も帳消しになる”
    p229でタカツキリクオは、『クラッシュ』を引用したヴォーンの投稿からニナイの真の目的を知る。“特別な自動車衝突で彼女は死ねる。我々の夢と幻想をすべて変えることができるんだ。その事故でともに死ぬ男は……”
  • タカツキリクオは結果としてニナイケントに勝利してはいるが、それは同時に「法則」の肯定にもなっている。
  • 「思考は現実化する」という自己啓発定番の法則はアクチュアルな世界で聞かされると辟易するけど、この小説ではもっと字義通りのものとして捉えた方がよいと思える。つまり登場人物の思考が小説内の現実に染み出してくる事態を示すものとして。言い換えると、「書かれたものが、書かれる内容を決める」といったことでもあるかもしれない。
  • 一見阿部和重らしくないストレートなハッピーエンド。Radiohead “Airbag” の歌詞引用で終わっている。この曲とこのシーンは合っていると思う。













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