::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

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 “キャビン”






“The Cabin in the Woods”
 Director : Drew Goddard
 US, 2011





 「予測不可能」とか「衝撃の展開」とかのフレーズで紹介されている映画。
 支障ない範囲で書けることは少ないんだけど…… 見たところ、絶賛している人とその逆の両極に分かれている感じ。たぶん、チープなホラー映画が好きでたまらない人は楽しめるはず。



(以下ネタバレ含む)



 さすがに文字通りすべての情報を完全にシャットアウトして鑑賞するというのは難しいはず。「よくわからないが何か仕掛けのあるホラー映画らしい」ってことだけぼんやり知って見に行くパターンが多いと思う。そうやって見始めると、プロローグが何かの組織側の描写から始まって、その後の出発シーンのベタなノリとベタなキャラクター設定、次いで屋根上の監視者…… と来るともうそのあたりでメタ設定なんだっていう構図自体は見える。ではそれが何のためにおこなわれているのか、というのはこの時点ではまだわからない。全容がわかるのは「観客を喜ばせる」という台詞と “古きもの” という単語が出てきたときだ。

 ということで、簡単に言えばメタ・ホラー映画。ホラー映画というジャンルの約束事を踏まえた上でそれをストーリーに組み込んでいるというつくり。
 でもそうした全体がまた正統的ホラーの構造に回帰してもいる。後半、リフトのドアが開いた瞬間から、操作者と被操作者は区別なく「被害者」の側になってしまい、その後はシンプルにスプラッターとサバイバル、最終的には全滅させられるというバッド・エンド。衒学的で凝った仕掛けの構造とかには向かわず、仕組んでいたはずの側も巻き込んでの純粋な王道ホラー展開へ。
 そんな感じで、一回メタレベルに行ってから結局オブジェクトレベルに戻ってくるっていうのがおもしろかった。ホラーの約束事が生真面目に扱われるところとか、過去のあらゆるホラーを取り込めてしまうような設定とか、そういうところは思いっきりコメディの様相で、総合的に「ホラー+コメディ」っていう雰囲気の映画になっている。
 普段ほとんどこのジャンルを見ないのでよくわからないけど、ホラー映画というのはそもそも「様式」とそのパロディの繰り返しの歴史があるみたいなので、そういう意味ではこれもまた伝統の延長にあるのかも。


 ……という映画ではあるんだけど、見終わってからの疑問として、宣伝文句で謳われている「予想外の展開」というのはどれを指して言っているのだろう、ということを思ったりした。最後の最後にびっくりするようなどんでん返しが待ち受けている構成ではなく段階的に映画のつくりが把握されていく進み方になっていて、どこか特定のポイントで急に衝撃の事実が明かされるという局面はなかったような……? 観た人の感想が絶賛と批判に二分されてるのも、この前評判に対する受け取り方の違いから来ているっぽい。
 映画を観ただけだとこのプロモーションの意図がよくわからなかったんだけど、終わったあと予告編映像を見てみたらヒントがあった。予告は意外にもけっこうな先までネタバレしてて、でももちろんパーフェクトに何もかもを明かしてしまっているわけではない。「ここまでもよくある展開かもしれない。でも、ここから先は絶対に読めない」というナレーターがあったりする。つまるところ「この予告編で何が隠されているか」というのが配給側の意図してる予想外の展開ということになるわけだけど、そうすると、予告編で出てこないもの、すなわち膨大な数のキューブだったり、総進撃・大殺戮だったり、最後に出てくる “古きもの” だったりが目玉として考えられているということのようだ。逆に、「5人の体験は仕組まれたものでした」という点まではそんなにものすごく売りではない、と。
 たぶんそういうことになるとは思うけど、だとするとそれはこの映画を観たときの自分の感覚とは少し違うかもしれない。というのは、寸分違わぬ予想がついたわけではないにしても、展開として想定される範囲のなかには入っていたという印象なので。肯定的評価な人たちの感想を見ても、「びっくりした」「唸らされた」みたいなのはなく、例外なく「とにかく笑った」と言っている感じで、やっぱりジャンルの過去を踏まえてのコメディというのが真髄だと思う。
 

  • 全解放ボタンなんてものがなんで施設内にあるのかはよくわからないよなぁ。。。でもあの「考え得るかぎりの総出演」による極限スプラッターは端的に笑ってしまう。
  • ただ、何か見落としているような気もしなくもない。いや、そんな複雑な狙いを持たされた映画ではないはずとわかってはいるけれども……。
    「電気系統の故障がなぜ起きたか(誰かに仕組まれたものか)」というのは少し気になっている。メタレベルも結局正統ホラーに帰着するのだとしたら、そのレベルもまた仕組まれたものだと考えることはできるわけだし。
  • 最後に出てくる「古きもの」はやはり、「充分楽しむことのできなかった観客の怒り」を意味した皮肉表現と捉えるのが妥当?


IMDb : http://www.imdb.com/title/tt1259521/







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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell