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 ブルデュー “芸術の規則”



“Les Règles de l’art — Genèse et structure du champ littéraire
 1992
 Pierre Bourdieu
 ISBN:4894340097, ISBN:4894340305



芸術の規則〈1〉 (ブルデューライブラリー)

芸術の規則〈1〉 (ブルデューライブラリー)

芸術の規則〈2〉 (ブルデューライブラリー)

芸術の規則〈2〉 (ブルデューライブラリー)






 フローベールの小説『感情教育』を社会学的に分析した本。(see. フローベール “感情教育” http://d.hatena.ne.jp/LJU/20041204/p1
 ブルデューによると、従来の文学批評というものは、作者を伝記的になぞり神聖化したようなものだったり、あるいはテクスト分析のように作品の内的分析だけにとどまるものだったりで、作品が生成されるに至った歴史的・社会的構造を視点を欠いている。
 本書でブルデューはこうした文学批評のあり方を批判し、フローベールおよび彼が生きた19世紀中〜後期のパリ文学界を対象として「社会学的文学批評」の実践を試みる。
 著者ピエール・ブルデューはフランスの社会学者。主著:『ディスタンクシオン』。主概念:ハビトゥス:ある社会的軌道と〈場〉の内部でのある位置から生まれ、その位置を多かれ少なかれ好都合な機会として現実化しようとする諸性向の体系。ひとつの資本として機能し得る獲得物であり所有物。社会構造の再生産に関わる。

  • ポイント
    • 作者、すなわち文学作品の唯一絶対なる「創造者」とみなされているこの存在は、いったい誰がどのように創造したのか。
      • 「創造者」は、文学作品を形成する〈場〉によって創造される。
      • 〈場〉:そこに参入する参加者たちによってゲーム・闘争がおこなわれる社会空間。
      • 〈場〉での約束事(歴史)を踏まえ、より多く正統性認定を獲得しようという闘争。
    • 作者の唯一性
      • 「作者」は、従来の文学批評が捉えていたようにただ自明に唯一性を持っている存在なのではない。
        ブルデューの考え方によれば、作家たちは自らを創造主として生産するために固有の作業をおこなっている存在であり、そうした経路・結果にこそ交換不可能な唯一性がある。「作者」の唯一性はそのようなものとして理解されるべきである。
    • 作品の価値
      • 作品の価値は、作品に内在的に備わっているようなものではなく、文学の〈場〉、すなわち文学への「信仰」をもって参加する行為者たちの圏域において生成されるものである。




感情教育』のパリ Le Paris de L'Éducation sentimentale, Pierre Bourdieu
 芸術の規則 I p75 の図版をもとに作成。地図は OpenStreetMap のデータを原図とした。

 
感情教育』の社会空間は、[4] 実業界・[5] 芸術家の世界・[2] 学生界 という三つを頂点とする圏域のなかにある。
この圏域全体はさらに、[3] 大貴族の世界 および [1] 庶民階級の世界 のそれぞれと二重の対立関係を持っている。
新興ブルジョワジーフレデリック、アルヌー、マルチノン)の空間的移動の激しさは、社会的転向を表す。
この構造化され階層化された空間の中で、社会的軌道のうち上昇軌道と下降軌道がはっきり区別される。上昇軌道は南から北西、下降軌道は西から東・あるいは北から南へと描かれる。




[以下、ノート]






  文学を社会学的に分析することの正当性の主張


プロローグ フローベールの分析者フローベール


  感情教育』の展開が為される社会空間の構造:作者自身が位置していた社会空間の構造

      • フレデリック:二重の意味で未決定の存在
      • ダンブルーズ家 [政治と商売] / アルヌー家 [芸術と政治] 
      • 感情教育』:[芸術/金銭]・[純粋愛/お金目当ての恋] それぞれの両立不可能性を学んでいく過程
      • 「負けるが勝ち」のゲーム 
      • フレデリック:受動的な不決断 / フローベール:能動的な非決定

  付録1 『感情教育』梗概
  付録2 『感情教育』の四つの読み
  付録3 『感情教育』のパリ


第I部 〈場〉の三状態


第1章 自律性の獲得 〈場〉の出現の決定的段階
  フローベールの時代の社会空間を描写

      • 正統性を認定された作家たち / 新参者たち という対立の競争関係
      • ブルジョワ芸術」「写実主義」両方に対立する二重の拒否→「純粋芸術」の場が形成
      • 〈場〉を創出・維持する努力
      • 芸術場の自律性追求→経済的勝利と象徴的勝利のトレードオフ
      • 社会空間での作者の位置こそは作品に対する作者の選択原理
      • 感情教育』内の社会構造:作家フローベールの心的構造と権力場での位置との関係の構造

  付録 全体知識人と思考の全能性の幻想
第2章 二元的構造の出現
  1880年代に成立する文学場の状態のモデルを提示

      • [純粋生産/大量生産]:経済的利益 小←→大
        [認定済の前衛/参入者]:〈場〉での象徴的正統性 高←→低
      • 支配的位置の保持者と志願者の対立
      • 自律的な生産の場の社会的形成過程は、〈場〉に固有な知覚・評価原理の形成過程と並行

第3章 象徴財の市場
  文化生産の場は、需要への全面的従属と市場からの絶対的独立 の中間に分布。商品/意味という二面性

      • 純粋芸術:長期的には経済利益 / 産業芸術:短期的な経済利益
      • 正統的知覚・評価図式を押しつける権利をめぐる闘争
      • 構造的・機能的相同性
      • 心的構造の機能
      • 社会的方向感覚
      • 「創造者」は、多数の関係者総体により場の中でつくられる。イルーシオ(:価値体系の根拠)

  付録 〈場〉の効果と保守主義の諸形式


第II部 作品科学の基礎


第1章 方法の問題
  従来の文学分析への批判、科学的分析の利点

      • ハビトゥス概念の意義  関係主義的な思考(≠構造主義
      • 科学的客観化作業へ抵抗を持ってきた文学批評(:「唯一性を持った作者」による説明)への対抗
      • 哲学批判・テクスト分析批判(←これらも〈場〉の構造から説明され得る)
      • 内的読解 / 外的読解 の超克

第2章 作者の視点 文化生産の場の全般的特性
  作家がいかにして文学場の一定の位置を占めることになったのかを問うこと

      • [限定生産/大量生産]
        [象徴資本の大/小]
      • 競争の賭金=争点:正統性の独占権 〈場〉の境界画定と入場制限
      • イルーシオ:ゲームへの集合的な信仰、賭金への関心
      • 可能態の空間 〈場〉が提示する拘束のもとでの自由と潜在可能性
      • 〈場〉に固有の過去・累積的な歴史は、入場条件を成すようになる。参加者の歴史知識の重要性。
      • 芸術場の自律性は、絶えざる再創出作業。
      • 社会的軌道:経済資本・象徴資本の配分構造の配置と移動  世代内的軌道群/世代間的軌道群
      • 作家の性向は、可能態の構造・〈場〉での位置 に応じて達成される


第III部 理解することを理解する


第1章 純粋美学の歴史的生成
  哲学者etcによる文学性強調(無償性、機能の不在、形式の優位性、脱利害性)に対する批判

      • 「創造者」を創造し芸術作品を芸術作品たらしめるのは、作品の価値が生産・再生産されている芸術場
      • 創出過程の歴史と列聖過程の歴史の分析
      • 習慣化された知識
      • 歴史的な決定要因を自覚するという歴史科学的分析の重要性

第2章 眼の社会的生成
  美的感覚と芸術的意味作用の相互的触発

      • クワトロチェントの眼  ルネッサンスの絵画について(バクサンドール)

第3章 読みの現実態理論
  フォークナー『エミリーへの薔薇』:ハビトゥスの実践的推論によるミスリーディングを利用した小説

      • ハビトゥスは時間的存在の社会的構造の原理であり、世界の意味づけの媒介となる予測や推測の原理

ダ・カーポ 幻想とイルーシオ
  フローベール:信仰効果の根拠の問題を提起するために信仰効果(イルーシオ)を利用する

追記 普遍の協同主義のために
  知識人復権の目論見







[雑多なメモ]

  • 文学的創造は、日常生活においては不可能な「あらゆる社会的位置が同時に成立する可能性の経験」を可能とする。(I p56)
  • バルザックフローベールたちは、ボヘミアンというライフスタイルをつくり出し広めることによって小説家のアイデンティティーや価値観・規範を構築することに貢献した。(I p95)
  • 文学史が公認し歴史に残った作家たち以外にも、消滅した無名の作家が多数存在する。彼らもまた文学場の成員であり、機能を果たしている。(I p118)
  • 出身階層という要素を超歴史的な説明原理と考えるのは安易。(社会的分析とはそういうものではない。)(I p137)
  • 作家は誰もが自分の内部に予想される読者のために書く。(I p166)
  • 学校制度は、純粋文学作品に対する正統的/非正統的という認定の区別を絶えず再生産する。(I p234)
  • 流派やグループ名といったものは、正統性承認をめぐる作家・批評家の闘争の中で生み出され、互いに差別化する承認の記号としての機能を果たす。(I p249)
  • ある批評家が読者に対して影響力を持ち得るのは、読者の側がその社会世界観やハビトゥス全体においてこの批評家に構造的に一致しているかぎりにおいてである。(I p259)
  • 社会諸科学の門外漢は、その〈場〉の固有の問題系を知らないため、科学的分析を常識に対する攻撃として捉える傾向を持つ。(II p106)
  • 芸術愛好家は〈場〉の固有のカテゴリーを実践的状態で所有するが、そうでない人々は芸術作品に対して、日常生活で自分が活用している実践的図式しか適用できない。(II p207)
  • バクサンドール『クワトロチェントの眼』:ルネッサンスの絵画は、一般に思われがちな「純粋な芸術」として制作されたものではなく、発注者により希少な絵具やその使用面積、技巧などへの細かい指定の注文を請けて生産されていた。(契約書に明示され記録として残っている。)(II p209〜)











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―Angela Mitchell