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 “オーガスト・ウォーズ”






“Август. Восьмого (August Eighth)
 Director : Dzhanik Fayziev
 Russia, 2012





 2008年に南オセチアで生じたロシア-グルジア間の戦争を描いた映画。
 ロシアによる製作。
 「現実の戦争と巨大ロボットバトルを組み合わせた映画」みたいなプロモーションが為されているけれど、実際はロボットの要素はそんなに大きく出てこない。それよりもミリタリー描写の方がインパクトあった。撮影にはロシア軍が全面協力。戦闘の描き方としては、ハリウッド映画よりも少しばかり容赦ない雰囲気があったかも。


 南オセチア紛争という実際の出来事は、細かい事実認定において双方が対立していて、特に戦火の発端を相手側へと帰責し合っている。勃発から1年後、EU独立調査委はグルジア側の攻撃が戦火の発端と報告し、これが国際的な認識のひとつとして定まった様相はあるものの、グルジアがそのまま受け入れたわけではなく、論争を招く題材ではあり続けている。http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8284046.stm
 ……と、そんな出来事を題材に当事国の一方が製作した映画であれば、自己正当化は必至。ロシアという国なら尚のこと、正面から自国を批判するような内容の戦争映画を公開することは難しいと思うし。
 そもそもこの映画に最初に関心を持った理由は、「戦争に巻き込まれた少年の空想と実際の兵器の進撃とが入り混じる」というのがおもしろそうと思ったところにあるんだけど、基礎情報を見てみるとどうも戦争プロパガンダ映画だと予想される感じではあり、だとしても現代においてロシアがつくるプロパガンダ映画ってどういうものであり得るのか確認してみたかった、という興味もあった。


 で、観終わってみると、「空想と現実の並行描写」みたいなのは思ったほどフィーチャーされてなくて、意味合いも薄い。また紛争へのスタンスについては、たしかにロシア側の主張に沿ったつくりにはなってるけど*1、そんなものだろうという予想の範囲内ではある。それよりもテーマとしてはむしろシンプルに「母親の愛」というものに焦点が当てられた映画だったように思う。それは母親のキャラクター描写の推移にもはっきり表れている。序盤では子どもよりも新たな恋人にうつつを抜かすような人物として描かれ、視聴者の共感を呼びづらいことを狙ったキャラクターとして登場。それが物語の進行に伴い、子どもをたすけるために努力する母親へと変わっていく……という感じで、母の愛最大賛美、みたいな。

 そういう意味では、事前のイメージとはだいぶ違う映画だった。
 「少年の空想」の物語的な機能がもっと強いと良かったのに、とは思う。ああいう体験をしたら空想へ逃避するというのは自然だと思うし、というか、逃避してそこから戻ってこれなくなるレベルの状況なんじゃないかな……というぐらいなんだけど、あまりこの面は映画の軸には関わってこなかった感じがあり、ただただ母親が必死にがんばった、ということしか語られていないような。
 結局テーマ自体にはそんなに心動かされなかったんだけど、映画としては、戦闘の描写にわりと見る価値があったように思う。ミリタリー的臨場感という面もそうなんだけど、アメリカ映画との対比という意味でも。というのはふだん戦争映画ってアメリカ製作のものしか見てこなかった気がするので、この映画を観ることである程度の相対化・比較ができるように思ったので。どういったところが違っていて、どういったところは同じなのか。というのを考えながら観た。
 

  • その他メモ
    • 新興起業層の描き方。ああいう役回りを課せられるのが、なるほどという感じ。
    • バスのシークェンスが好き。トンネル内の光と陰影の感じとか。
    • あの状況下でよく携帯あれだけ使えるな、っていうのは気になったりしたけど、ああいうものなのだろうか。携帯がすごく活躍してる。というか動画送信が存在する時代なのだね。そんなに昔のことではなく実はけっこう最近の出来事なんだ。
    • 上に貼ったポスターは日本版で、原公開版だとこんな感じ↓





IMDb : http://www.imdb.com/title/tt2094767/




参考


以下、南オセチア紛争ってどういうものだったかを簡単に確認。
時期としては 2008年8月。ちょうど北京オリンピックの最中という意味で覚えやすいんだけど、この時期自体にも何か意味があったのかどうなのか、というのも問われているポイントではあるようだ。


基本情報


期間 : 開戦 2008.8.7 - 停戦 2008.8.16
主たる戦場: 南オセチア …… グルジア内のオセチア自治領域。オセチア人はグルジアからの分離独立(北オセチアとの統合)とロシア連邦への加入を求めている。領域内にはグルジア人も居住。
交戦した勢力グルジアジョージア南オセチア、ロシア
友好関係の構図 : 南オセチア ― ロシア
グルジア  ― アメリカ・EU
顕著な被害地 : ツヒンヴァリ(南オセチアの州都(首都))、ゴリ(グルジアの都市。ツヒンヴァリの南方25kmに位置)
その後の動静 : フランスの仲介によりグルジア-ロシアは和平案に調印し停戦(2008.8.16)。その後ロシアによる南オセチア国家承認を受けてグルジアはロシアと断交(2008.8.29)。現イヴァニシヴィリ内閣は2012年にロシアとの対話を再開。


Political Map of Georgia, Public Domain
Georgia map 
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Map of Georgia, Google Map

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資料

EU独立調査委員会のレポート
  IIFFMCG, Independent International Fact-Finding Mission on the Conflict in Georgia, 2009.9
   http://news.bbc.co.uk/1/shared/bsp/hi/pdfs/30_09_09_iiffmgc_report.pdf  [volume I, via. BBC]

    • 死傷者数(各陣営による計数)
      • グルジア:戦闘員170人・警察官14人・非戦闘員228人死亡。負傷者数1,747人。
      • ロシア:戦闘員67人死亡。負傷者数283人。
      • 南オセチア:365人死亡。(戦闘員・非戦闘員を含むものと推定)


ヒューマン・ライツ・ウォッチのレポート
  Humanitarian Law Violations and Civilian Victims in the Conflict over South Ossetia, 2009.1.23
   http://www.hrw.org/en/reports/2009/01/22/flames-0  [EN]
   http://www.hrw.org/ja/news/2009/01/23-0  [JP]


報道写真 [the guardian, UK]
  Russia's counterattack on Georgia
   http://www.theguardian.com/world/gallery/2008/aug/09/georgia.russia


停戦直後の報道解説 [BBC, UK]
  Ossetian crisis: Who started it? by Jenny Norton last updated at 2008.8.19
   http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7571096.stm

  • “古くからの反目が現下の情勢を形成するような地域では、あるひとつの衝突に関する一面だけの真実はことごとく、次なる暴力連鎖を点火する神話へと速やかに変貌する”






*1:この側面に関してはいろいろ思うところもあるけれど、とりあえず最後のグルジア兵の描き方が特にポイントのように思える。かろうじてギリギリのバランスを取ったと見るのか、とってつけたようなものと見るのか。むしろこの描写があるからこそ中立性をアピールできる、という点で高度なのかも?






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell