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 渡部亮平 “かしこい狗は、吠えずに笑う”






“かしこい狗は、吠えずに笑う” Shady
 監督 : 渡部亮平
 2013





自主制作映画。でもその括りに納まらないクオリティだったと思う。

  • まず、撮影について。
    撮影/照明を手がけた辻克喜がパンフレットにて言うには、「この作品の構図や照明はあくまでスクリーンで観てもらうことを前提にして撮影しました。暗い空間でスクリーンで観るのと、テレビで見るのでは同じ映像でも印象が大きく違います」と。
    たしかに、ちょっとくすんだ感じのライティングがすばらしい。夕方の三差路のシーンとかもすごく良かった。
  • 演技。
    ほぼ無名に近い主役ふたり。いずみの部屋でアヤについてしゃべるときの自然体は、役者的演技に染まりきってないからこその賜物だと思う。
    清瀬イズミ役の岡村いずみは、笑い方が良かった。熊田美沙役の mimpi*β は、低い声の女優って良いなって思う。(“不細工”設定の役だけど、あきらかにかわいいよね?)
  • ストーリーについては……
    事前情報シャットアウトが確実に推奨される。そう推奨すること自体が既にして「仕掛けがある映画」という情報を明示してしまうジレンマはあるけれども……。
    とはいえそのぐらいはわかっていてもいいと思う。冒頭からはっきりと不穏な気配が感じられる映画だし。
    プロットについていろいろ思考を惹起する映画という意味で、自分としては『プライマー』っぽい感触があった。

感想-1 核心的な部分についてではないけれどストーリー展開の方向性に多少触れた範囲で。


監督と主演ふたりによる舞台挨拶があったので、いくつかメモ。

  • 上映前ではなく上映後に舞台挨拶がおこなわれたんだけど、あのなかなかインパクトある内容が終わったあとにそのまま出演者本人が目の前に登場するというのは、感覚を切り替えづらく不思議な感じがあった。演技する人物から素の人物へほとんど時間差がない移行。
  • 映画の細部に対するスタンスの話。
    主演ふたりにはイメージカラーがそれぞれあって、イズミが赤、美沙は青。ふたりの部屋の基調を成す色だったり、ふたりが塗るペディキュアの色だったり。そしてそれらの色がどう使われるかがキャラクターの位置関係を表しているとのこと。
    そのように、一度見るだけではわからなくても再観賞のたびに気付くことがいろいろある映画らしい。
    監督が言うには、自主映画でよくありがちなこととして、登場人物の部屋で小物等がただ何となくそこに置かれているだけというのが多くて気になると。そういう適当な撮り方ではなく、細部に渡って意味合いを考えて配置されるべきであって。凝りだすときりがないというのはあるけど、でも極力そういうのを気にしながらつくった……というコメント。
  • 警官ふたりが登場する意味についての監督の説明。
    映画内で事件が起きるとき、警察が動かないのはリアルじゃないなどと言われたりする。実際この映画でも、途中で警察に行ってさえいればあんな顛末にはならなかったわけであって。
    ストーリーに直接絡まない警官ふたりの描写があるのは、そうすることによって観客は「あぁ、警官も動いていたんだ」と思うことができるため。こういうやり方はシナリオ講座時代に教わった、と。
    (たしかに、途中交番に行きかけるシーンもあるんだけど、でも結局話すことができなかった心理的な推移がきちんと描かれている。当然浮かぶだろう疑問に対する何らかのレスポンスが含まれている映画。)
  • 監督が最初につくった短編映画『ロック』が本編前に上映されたんだけど、この作品について監督は「内容はあまり意味のない映画」としつつも、だけどこれを完成させたことによって、映画制作っておもしろいなと実感し『かしこい狗〜』を制作する動機になったと。うん、実際これについてはそんなにおもしろくはなかったんだけど、、、そういう視点の意義はある気はする。


感想-2 核心部分について。決定的ネタバレ含む。

  • 最後の最後に、主人公がいわゆる「信頼できない語り手」であったことが判明する。
    実のところ、どこまでがフェイクだったのだろう?
    最後にいきなりすべてが揺らぐ。再観賞が必須な映画だよなー。
    インコが生きてる(=自由になっている)のはひとつのポイント。
  • インコはねー…。弁当のところは、あれ絶対そう思うよね。弁当持ち出されてきた瞬間に誰もが予想すると思うんだけれども、その予想を逆手に取ってくる。この点から、映画内の事物を作者がどこまで考えて構築しているかの深度が把握できる気はする。
  • スタッフロールのあとのシーンがまた扱い難しいというか……。
    これについては別の舞台挨拶時に監督が触れていたらしく、“Another” “After” の二種類の解釈があるようなんだけど、監督は後者を意図してたのに前者と解釈する人が多いことに驚いていた、と。(see. Yahoo!映画ユーザーレビュー http://info.movies.yahoo.co.jp/userreview/tyem/id346111/rid5/p0/s0/c0/
    ……いやー、あれを前者と受け取るのは難しいよねー。言われるとたしかにそれもあり得るって思わされるけど、見たときは自分もふつうに後者と思ってた。
    というかあれを “Another” とするなら映画内容の難度レベルが一段階上がる。
  • 自分を守るための嘘こそが最大の武器である、というのがキーフレーズ。
    ――正確には、「自分を守る嘘は、あなたの武器でしょ?」という台詞。〈わたしの武器〉ではなく、鏡を見ながらの確認として言われる〈あなたの武器〉ということばなのが実は重要なのかも。




公式サイト : http://kashikoi111.web.fc2.com/
IMDb : http://www.imdb.com/title/tt2813906/








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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell