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 “楽園追放 -Expelled from Paradise-”






楽園追放 -Expelled from Paradise-
 監督 : 水島精二 脚本:虚淵玄
 2014





評価難しいところもあるんだけど、結論としては良い作品だったと思う。

  • まず評価が微妙な点から言うと、
    • 予告見たときにおもしろそうなところがぜんぜんなくって。一方でわりと話題にはなってたし好意的感想も多い感じだったので、見るかスルーするかずっと迷ってた。
    • 全体的に舞台風景に魅力がない。なんか平板。
      • バーチャルワールドの光景がどうにもチープというかそれ以前に工夫や創意があまり感じられない。ビーチにしても、純データ内ランドスケープにしても。保安局上層のあの空間も。
      • これに対置される「ナノハザード後の地球」にしても同様。アーハンが飛び回り交戦する廃墟の都市も造形として味気なくて、3DCGのテスト用マテリアルが並んでるだけって言ってもいい感じで……。(といっても、ディーヴァ外観とか軌道プラットフォームとかは良かった。)
    • 導入設定とかもなぁ……。
      『物語は、人類の安住の地・電脳世界ディーヴァが、謎のハッキングを受けるところから始まる。ハッキングの狙いは何か。捜査官アンジェラは、機動外骨格アーハンを伴い、荒廃した地上へと舞い降りる』
      ……っていう導入が、設定自体もだけどとにかく語用感がもう2・30年ぐらい前の新味なさで、こういうノリをあえて今やってるんだ、とか仮に言われたとしても別に納得はできないな。(虚淵玄が絡んでなかったらこの作品絶対スルーしてたと思う。)
      予告で出てくる『楽園を追われたアダムとイブの気持ちがわかるわ』っていう台詞もなんとも萎える……。これ実際本編中で聞くと別にぜんぜん違和感はないし、テーマ内容を端的に表現してる台詞なんでまあわかるのはわかるんだけど、ちょっとクリシェ度が高くて作品紹介としては不要な誤解を生むような、などの思いが……。
  • つくづく、よく実際見てみる気になったな、っていう先入状況ではあったけど、見た結果としてはわりと楽しめたし、上述のようなdisポイントも実はもう気になってはいない。
  • では何が良かったかというと、
    • ストーリー。唯一無比のおもしろさとか意外性とかっていうより、バランスが良いという意味で。見終わったあとに爽やかさがあって、不快感がぜんぜんない。
      • 主人公級の3人が全員良い人、っていうのが非常にストレスフリー。
    • 舞台風景には特段の魅力がないんだけど、この作品は「動き」にこそ真髄がある。
      • アーハンによる板野サーカスの高クオリティ。
        廃墟の建造物群が味気ない、って書いたけど、まるっこくて独特の浮遊エフェクトのあるアーハンたちが立体的に飛び回って戦闘を繰り広げるところは、実際は背景は気にならず純粋に戦闘に目を奪われる。
      • 3DフルCGアニメ、っていうのはやっぱり大きな特徴。
        いろんなものが動く。特にアンジェラ・バルザックの髪の毛。アングルまわりこみながらキャラクター動作にあわせて重力を描く感じ。

ものすごくおもしろくて歴史に残る作品、ってほどではないんだけど、「好感」ということばがまったくためらうことなく適用可能な、そういう作品だった。



その他メモ。

  • 共鳴弾頭をレールガンで狙撃するところ。軌道上で地球を大きくまわって撃ち落とす、ってのがなんか視覚的快感あった。
  • 演算バックアップによる未来予測での迎撃、っていう考え方も好き。
    自己の運動にランダムなノイズを混ぜて予測を乱すっていう対抗措置とかあってもいいな、とか思ったりもした。
  • 仮想世界における格差については、計算リソースが有限だから生じることであって、もし『順列都市』のエリュシオンみたいに演算能力無限だったらそういう問題は出ないのだろう。(エリュシオンでは、何度でも自分だけで再発進が可能。)
    といっても「発進」以前の世界でのコピーたちには露骨な格差状況があったし、そもそもエリュシオンの始祖住民は発進以前の世界での大富豪しかいなかったりするわけだけども。(実務上の創始者ふたりと「密航者」を除いて。)
  • フロンティア・セッターに対して保安局上層がやたら強硬なのが物語上ヴィランっぽい描写になってるけど、もしディーヴァ住民による直接民主制でこの件の意志決定をおこなったとしても、結果として排他的対応が採択されることになったかもな、とは思った。「楽園追放」っていうのの意味合いは、その場合の方が少し重みを増していただろう。(三柱の神性を模したあの保安局上層部も必ずしも個体的存在とは限らず、何らかの集合体に与えられた表象なのかもしれないが。)
    「呼びかけ」に応じたのが結局誰もいない、っていうのもなかなか。
  • フロンティア・セッターは劇中ではどこまでも「良い奴」なんだけど、ああいった階梯に達した存在であれば人を欺くこともできるはずで。
    にもかかわらずディンゴとアンジェラがフロンティア・セッターを信じるのは、出会ったときからの関係性の構築の結果であって。それはつまりふつうの人間関係のプロセスと同じなのだろう。
  • 「〜は人間ではない」というより、「〜も人間だ」という論法を採る感覚はよくわかる。
    • フロンティア・セッターのような存在が人間と同質の存在なのかあるいは(より上位の)異質な存在なのか、っていう問題はそれはそれとして重要なものだと思うのだけど、この作品はそういう方向に問いを向けない。だからこそ成立している。(テッド・チャンの『理解』や『人類科学の進化』はこの問題を語っている。)
    • 人類よりも拡張された知性を持ち、身体性に制限がなく不老不死とも言える生を歩む存在であっても、同じことばで対話可能ならば同類と言ってもいいんじゃないか、っていうのがこの作品のひとつの主張。

水島精二監督×脚本・虚淵玄『楽園追放』インタビュー でいくつか銘記したいものがあったのでメモ。


http://animeanime.jp/article/2014/11/11/20814.html

虚淵玄
多様化に対して寛容な人でありたいなって常々思っていますので。それを直に伝えられるのはSFだよな、と思っていました。だから、「何をもって人と呼ぶのか?」みたいなところは、寛容でありたいよねっていうぐらいの気持ちです。

水島精二
だから最後まで、ディーヴァと地上のどちらか楽園なのか?はすごく気になるところです。

http://animeanime.jp/article/2014/11/14/20855.html

水島精二
絵コンテ以降は、一切手描きの絵はないんですよ。

―それぞれのキャラクターってどんな人なのでしょう?
虚淵玄
ひと言で言うなら官僚とアウトローです。

水島精二
アンジェラが面白いなと思ったのは、実際の肉体年齢と本来の彼女の年齢の違いです。しかも彼女はデータであるから、その年齢すらもあやふやなんです。(…)実際には実年齢でいうとアンジェラはディンゴより上かもしれないわけです。


テクニカルな点について、モーション監督を担当した柏倉晴樹の発言をいくつかメモ。


https://twitter.com/Akitsuki_dash/status/535952158286282754

柏倉 晴樹 @Akitsuki_dash
楽園追放、メインキャラが一部作画とか違うとか色々言われてますので、念の為。アンジェラで作画にしてるのは全部で4カットです。冒頭の顔ドアップ、後半の方のドアップの髪の毛のみ(顔はCG)、あとは逆さになって髪の生え際が見える2カットです。ディンゴは全てCGです。念の為。 #楽園追放
9:25 AM - 22 Nov 2014

https://twitter.com/Akitsuki_dash/status/535324300551532544

柏倉 晴樹 @Akitsuki_dash
楽園追放では結局モーションキャプチャは使用しませんでした。ちなみにモブキャラの動きも実は全て3Dの手付けで動きをつけており、その上から作画スタッフの方に形を描いていただいています。 #楽園追放
3:50 PM - 20 Nov 2014






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell