::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

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 “響け!ユーフォニアム”









良かった。
5話でちょっと引き込まれたあと、8話で完全に。
それから13話までずっと。
なお、原作は未読。以下はアニメ版について。




表現について

  • 動画と、音。


 これはもう、京アニという、現在の日本で(ということは当然のことながら世界でも)五指に入るであろうアニメスタジオの実力があますところなく発揮されているという他ない。
 この作品の場合、動画だけでなく音楽も表現の重要要素であって、しかもそれはただ楽器演奏シーンでの人の動きと楽器・音の描写にとどまらず、音の上手/下手の区別を表現することにも及んでいる。練習中での失敗混じりの音から、徐々にうまくなっていく音。あるいは、指揮者の求めるレベルに達していなくて拒絶されてしまう音。それがたとえ音楽の素養がない視聴者であっても、はっきり伝わる。
 その究極は11話。再オーディションでのふたりの演奏の明確な「優劣」。




内容について

  • 軸としては、だいたい以下のふたつ。
    • 上昇欲・向上心・情熱。
       この作品の主たる軸。麗奈の「特別になりたい」という目標。
    • 部内の人間関係。
      • 「全国を目指す」「楽しければいい」という二項対立。
         1年前のできごとに起因する2・3年生のわだかまり
      • リーダー論、という観点も。部長晴香と副部長あすかのどちらがリーダーに向いているのか。
         (これはアニメでは語られなかったけれど、今の2年のうち誰が次のリーダーになるのか、という課題にも発展していくはず。)
  • 上昇欲・向上心・情熱について。


 「全国を目指す」とか、「特別になりたい」とか。
 そのためには不断の努力が必要である、ということがきちんと描かれている。
 (cf. 一流となるには1万時間の努力が必要、といういわゆる「1万時間ルール」。)
 ただし麗奈がほんとうに「特別」を目指すならば、この先には音大やらプロやらが連なっているはずだけど、この作品では「吹奏楽部での厳しさ [部活動]」と「音大に入りコンサートプロを目指す厳しさ [プロ志向]」とはほとんど区別されていない。
 (プロたちの葛藤や過酷は、コミカルな印象が強い『のだめカンタービレ』の方がむしろきっちり描いていたと思う。特に海外編。)
 そうした「音大 / 吹部」の区別に唯一触れている部分が、第12話の久美子と姉の会話。

「うるさいな、音大行くつもりないのに吹部続けて何か意味あるの?」
「あるっ、意味あるよ」
「どんな意味よー?」
「だって! あたし! ユーフォ好きだもん」
(12話 『わたしのユーフォニアム』)

 ここは麗奈と久美子の志向の違いを決定的に示しているとも思う。

 香織もどちらかというと久美子と同じ側にいる。

「先輩は、トランペットが上手なんですね」
「上手じゃなくて、
 好きなの」
(11話 『おかえりオーディション』)

 楽器が好きであることと、特別を目指していることの違い。
 麗奈だったら、自分がただトランペットが好き、というようには表明しない。
 たぶん麗奈とかろうじて同じ側にいるといえる部員は、あすかだけだと思う。

 麗奈が拘泥する「特別」、つまり「誰よりも上に行きたい」という目標は、単に「楽器演奏で生活できるようになること」というようなものであるはずはなく、おそらくは国内の交響楽団に所属するようなことで充足されるようなものでもない。それは文字通りのトップを目指すことであって、つまり世界の誰よりも上に立つ、ということ。大言壮語であっても、そのように希求する種類の人間というのは存在するし、そう望む人間だけが実際にトップになることができる。
 だとすれば、部活に時間を割くより専属教師のもとで個人練習した方がよいのでは、とも思えるけれど……。(2話で、「あと部活の他に教室にも通っているので」という台詞がある。)
 ただ、麗奈が吹奏楽部に所属する理由ははっきり説明されている。それは、滝先生がいるから。
 麗奈の行動原理の基軸を成す「特別になりたい」という志向と、滝先生への憧れとは、どちらが先にあったのか。
 なんとなく、憧れが先にあって、その一環として特別を目指すようになった、という気がする。





個別の感想

 8話と11話は特に良かった。


第8話 『おまつりトライアングル』

  • 作画としてはこの回が至高。


 
 吸い込まれそうだった。
 わたしは今 このときなら
 命を落としてもかまわないと思った。



高坂の足は靴擦れで赤くなっている。場所を指定したのは高坂なので山登りに適した靴を用意するのが普通なのだけどそうしなかったのは、要は高坂が浮かれていたから。それはこの後の言動で分かることなのだが、気になっている相手である久美子と祭りの夜に他の皆とは違う特別なことを二人だけでやる、その事に舞い上がっているのだ。

久美子は時々失言をしますがそれは周りと同調して上手くやっていくには絶対にしてはいけない事です。にも関わらず久美子がそれをしばしばしてしまうのは久美子の根底にそういう同調に対しての軽視があるわけで、それは高坂と同じ考えなんですね。

脱いだ靴は裸の暗喩、要するに楽器を使った擬似セックスなわけです。おそらく久美子も高坂も真正のレズではないと思うので直接的な肌のふれあいは手を掴んだ所と唇に触れた所しか無い。それを言葉とファッションと楽器で擬似性交させる、すごく高度で美しく淫らで、そこがこの回の素晴らしさである。




第11話 『おかえりオーディション』

 再オーディションの回。全話のなかでこの回がもっとも濃密だったと思う。

  • まず、麗奈と香織の演奏。


 音の違い、たしかにすごく説得力あった。
 演奏者、音響制作、音響監督。
 総合的な京アニの表現力。
 ここは完全につくり手の意図通りに受け取らざるを得ない。


  • そこに至るまでの各者の思い。


 香織と晴香の会話。


 
「なんか、見透かされてるような気がするんだよね。
 わたしが思ってること、なんでも。
 だから、
 あすかをおどろかせたい。
 あすかがおもってるわたしの一歩先を、
 ほんもののわたしは行きたい――
 ……のかな」
「めんどくさいね」
「――めんどくさいね、ほんとうに」

 この気持ちはよくわかる。


  • 一方、麗奈と久美子。


 見返してみると、ここの光の演出はとてもよくできている。
 的確な解説を見かけたので引用しておく。

光を浴び久美子の目に眩しく特別な存在として映っていた麗奈が、今回は反対に影を背負っている。この場面は #8 「おまつりトライアングル」のリフレインだ。
麗奈を眩しく見上げていた久美子が、逆に麗奈に光を与える(それも今までの光源を若干無視するほどまでに!)特別な存在になった瞬間を描いた、とても美しく官能的でさえある、ゾクゾクする場面だ。
響け!ユーフォニアム #11 の小道具と演出 http://foxnumber6.hatenablog.com/entry/2015/06/28/201304




  


  • そして、麗奈の演奏が始まってからが圧巻。


 台詞はないけれど、交錯する多様な思いが能弁に表されている。1カット1カットすべてに意味が濃縮されている。
 これ、読解力とか分析なんてものをあらためて必要とすることがまったくなくて。11話まで毎回見てきた視聴者なら誰でもここから各キャラクターの「思い」を何かしら読めるはず。この場にいるキャラクターたちにとってもそうであるはずなのと同様に。「コミュニケーションの理解可能性」というのはそういうものなのだ。(「わたしたちは他者の内面そのものを直接理解することはできない」とよく言われたりするが、しかし「他者の内面を理解する」というのはそもそも、状況や文脈のなかでその都度おこなわれるコミュニケーションを通して為される日常的実践のことを意味するので。)
 もちろんアニメ作品が現実のコミュニケーション状況を説得力もって描けているかどうかは別問題、そしてこの作品はそれがとてもうまくできている。


  • なかでも特筆すべきは、まじろぎもせず麗奈を凝視するあすか。




 あすかって、麗奈と同様に向上心と自己規律にあふれた人物だと思うんだけど、これまでふたりの間に直接の対話はほとんどなかった。それどころか、あすかが麗奈に何らかの関心を向けたことすらもなかったような。(ソロパート決定の瞬間でも、あすかの表情は描写されていない。)
 でもここが初めて、そして唯一、麗奈に対するあすかの感情が微かではあっても表されたシーンになっている。
 ……あすかは、考えれば考えるほど謎めいたキャラ。
 7話での自室。綾波の部屋かって思うぐらい、装飾性のない部屋。(晴香や久美子の部屋とはまったく違う)
 他人に完全に興味がないわけではなく、序盤ではむしろ部長よりも部長に向いてそう、みたいに描写されてたし。あがた祭りも香織と晴香と行ってて、ふつうに仲良い面もあるし。
 ただ、こころをすべて開いてるわけでもない。――では何があるのか、というと、まだはっきり見えない。それは麗奈という、階梯が近そうなキャラについてどう思っているのか、という点でこそもっともよく理解できるはずなのだけど、このシーンだけではわからない。

「正直言って、心の底からどうでもいいよ。
 誰がソロとか、そんなくだらないこと」
 それが本音なのか建前なのか、
 その心を知るにはあすか先輩の仮面はあまりに厚く、
 わたしには、とても剥がせそうになかった。
(10話 『まっすぐトランペット』)

 「仮面」と言い表されているからには、少なくとも久美子はそれが本音だとは受け取っていない。また、このあと香織が再オーディション希望に挙手するところで、あすかがかすかに微笑む表情を見るかぎり、「心の底からどうでもいい」と思っているようには見えない。

 あすかは一見、コミュニケーション能力が高そうに見えるのだけど、実は社会性が低いという面もあるような気がする。
 社会性が低いというのは、他人との関わりを選択的に遮断する傾向がある、という意味で。
 たとえば麗奈の場合、「特別になりたい」というのは社会性と無縁ではあり得ない目標だ。特別になる、というのは他人に認められる/認められないという間断ない評価の果てにあるのだから。そのプロセスの途中で「悪者」になったりすることがあったとしても、それも含めて社会関係の一端のなかにいるわけで、麗奈はそういう関係性をも逃げずに引き受けようとする。
 ところがあすかの場合、そのような評価や軋轢といったものに関心がない、あるいはうまく逃げている、といった感じがある。去年の部内対立の際に中立であり続け部長職も引き受けなかったことなんかも、象徴的。
 晴香・香織とは仲が良いし、あすかがふたりを比較的気にかけているのもたしかなんだけど、かといって踏み込むことはなくどこかに一線が引かれているようであり、晴香と香織もそれを察している。
 「あすか先輩って、黄前ちゃんにはちょっと違うんだよね。一目置いてる、っていうか」…と見られている久美子に対しても、内面を決定的に開示することはなく、「仮面」と看破されてしまっている。

 演奏者として完璧を目指すあすかが他人に心からの興味を示す可能性があるとすれば、それは彼女同様に自分を厳しく律している麗奈をおいて他にない――と思うのだけど、あすかは麗奈がどのような人物であるのかそもそもよく把握していなかったような感じがある。もちろん麗奈の演奏力についてはわかっていただろうけど、彼女の動機や目標については何も知らなかったと思う。低音パートのメンバーには気を配っているあすかも、他のパートについてはまったく関わろうとはしないだろう。(そのようなタイプであるから、部長を断ったわけで)
 ところが、部全体にとっての注目イベントとなったこの再オーディションで麗奈が自分の友人である香織と勝負することになると、否応なく認知せざるを得ない。ここに至ってあすかは、初めて麗奈を直視することになる。
 部員それぞれの感情が痛いほどよくわかるこのシーンのなかで、ただひとり、あすかが何を思っているのかだけがわからない。





 かろうじてあすかの心の一端が覗かれるのが、コンクール演奏前の一瞬。

「なんか、ちょっとさみしくない?
 あんなに楽しかった時間が、終わっちゃうんだよ?
 ずっとこのまま夏が続けばいいのに」
「――何言ってるんですか、今日が最後じゃないですよ。
 わたしたちは全国に行くんですから」
「……そうだったね。そういえば、それが目標だった」
(13話 『さよならコンクール』)

 そして演奏中に眼を交わすあすかと久美子。
 演奏後、結果発表を聞くとあすかは静かに目を伏せる。
 あすかは作中もっとも謎に満ちたキャラなのだけど、物語を通して、ごくわずかにその感情を感知できるような気がする。




第12話 『わたしのユーフォニアム

  • 唐突に訪れるその瞬間。


「――はい、そこまで。
 トランペットは、きちんと音を区切って。
 ホルンはもっとください。
 それからユーフォ、ここは田中さんひとりでやってください」

ここは見てて実際唐突に突き刺さってきた。事前に久美子のモノローグで予告されてるにもかかわらず。

 そのとき、わたしは知った
 そのつらさを。
 あのとき
 麗奈がどんな思いでいたかを
 わたしは知ったのだ。

 久美子、序盤はあんなに冷めてたのになー…。

 「久美子ちゃんは月に手を伸ばしたんです。
 それは、すばらしいことなんです!」
 ……成果が伴わなくても努力それ自体に価値を認めるかどうか、という問題。

「うまくなりたい
 うまくなりたい
 うまくなりたい
 だれにもまけたくない
 だれにも…
 だれにも」

 音大・プロを目指しているわけではない久美子にとって、麗奈はほんとうはどのように見えているのか。




第13話 『さよならコンクール』

  • トランペット3人が並ぶところのシーン。





  • 1話と最終話の対比。


 この物語を最小限に要約するなら、「全国に行けなかった→全国に行けるようになった(進むことができた)」という話。
 たったそれだけではあるのだけど、このふたつの差は計り知れないほど大きく、その過程には無数の変化が詰め込まれている。


  • この回は、夏紀先輩に尽きる。


「いいね…… 中川先輩」

 ……仮に楽器の演奏力で他の部員たちに及ばなかったとしても、このような夏紀の性質はまちがいなく美点だって思う。
 将来たとえ麗奈やあすかがプロの音楽家になって成功し、夏紀が才能と無縁な平坦な人生を送るようになったとしても、彼女の長所はそれはそれで、社会を生き抜いていくなかで彼女に幸せをもたらす貴重なものであると思うのだ。



 











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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell