- 作者: 中河伸俊,渡辺克典
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 2015/05/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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アーヴィング・ゴフマン関連の論文集。
第1〜3章はゴフマンの理論・方法の概要。第4〜11章はもう少し踏み込んだ論考。
1991年の論文集「ゴフマン世界の再構成」があまり触れていなかったトピックにも関心が向けられている。
- 特色
- ゴフマンの遺産が経験的研究にどのように使えるのか/使われているのかという関心で編まれていること
- ゴフマンとEM/CAとの学的なつながりや違いに目を向けていること
- まだ意義や実用性が十分に検討されていない「フレーム分析」を取り上げていること
- ゴフマンの遺産の意義を学際的に眺望していること
- 目次
- はじめに 渡辺克典・中河伸俊
- 第1章 アーヴィング・ゴフマンの社会学 速水奈名子
- 第2章 ゴフマネスク・エスノグラフィー 渡辺克典
- 第3章 自己に生まれてくる隙間 芦川晋
- 第4章 「他者の性別がわかる」という,もうひとつの相互行為秩序 鶴田幸恵
- 第5章 会話分析の「トピック」としてのゴフマン社会学 平本毅
- 第6章 フレーム分析はどこまで実用的か 中河伸俊
- 第7章 引用発話・再演・リハーサル 南保輔
- 第8章 「ふつうの外見」と監視社会 永井良和
- 第9章 修理屋モデル=医学モデルへのハマらなさこそが極限状況を招く 天田城介
- 第10章 ゴフマンと言語研究 滝浦真人
- 第11章 ゴフマンのクラフトワーク 高田明
「フレーム分析」に関する第6章は、「ごっこ遊び」などフィクション論に通じる内容として興味深く読めた。ゴフマンのフレーム概念には問題があることも指摘されていて、理論として完成度が高いとは言えないようだが、入れ子状の重層的なフレーム変換なんかはフィクション分析の視点として、あるいは小説構造のアイデアとしても示唆的なものがあった。
以下、第1章・第2章・第6章のメモ。
ゴフマン理論の概要
第1章 アーヴィング・ゴフマンの社会学
第2章 ゴフマネスク・エスノグラフィー
- 初期のゴフマン
- 相互行為秩序がいかなる機能のもとで維持されているのかを分析。
- ゴフマンの「状況的規範」は、パーソンズの「規範」のように行為を一方向的に規定するものではなく、相互行為を通じて形成されるワーキング・コンセンサスをもとにフレキシブルに変容するもの
- 相互行為秩序がいかなる機能のもとで維持されているのかを分析。
- 晩年のゴフマン
- 行為者の現実構成に関わる認知論的考察へシフト。必ずしも機能主義的立場ではなくなる。
→「フレーム分析」
- 行為者の現実構成に関わる認知論的考察へシフト。必ずしも機能主義的立場ではなくなる。
- ゴフマン理論の一貫した特徴
- 「社会的なもの」を前提とした視点
- 「社会的なもの」:個人にとって外在し拘束性を持つ客観的実在。ゴフマンにおいては、相互行為秩序や、フレーム変換に伴う諸機能。
- 自然主義的観察の採用
- 制度的役割から解放された行為や振る舞い、「集まり」の分析
- 人々が状況にどのように参加するのか/人々が状況をどのように認識するのか
- 相互行為秩序の考察
- 逸脱論的発想
- 「社会的なもの」を前提とした視点
- ゴフマンの独特な記述のスタイル(「ゴフマネスク」)
- ゴフマンの手法
- ゴフマンの方法論は、量的調査や質的調査といった定式化された調査作法に則っておこなわれてきたものとは言いがたい。
- メタファーを用いたレトリック技法 ←ケネス・バークの影響
- ドラマティズム:「ドラマ」のメタファーを相互行為に当てはめた点がゴフマンの特徴。ただし、ゴフマン著作全般で活用されているわけではなく、『日常生活における自己呈示』に限られている。
- 不調和によって得られるパースペクティヴ:互いに矛盾する言葉同士を結びつける撞着的方法 →これまで見出されていなかった類似性に着目する効果。新たな分類を形成する手法。
- シカゴ大学での調査方法をめぐる状況変化
- フィールドワークによる調査→アンケート調査などの量的調査(ランダム・サンプリング)への移行
- 問題点・意義
- 概念の問題
- ゴフマンは一度しか登場しないこともある多数の概念を提示したが、諸著作に一貫性が見出しづらく、ゴフマンに対する多様な解釈の原因となってしまっている。「状況次第のサンプリング」。
→ゴフマンは自身の手法に自覚的。体系化されていない自然主義的観察と位置付けていた。「再現実験」のようなもの。
- ゴフマンは一度しか登場しないこともある多数の概念を提示したが、諸著作に一貫性が見出しづらく、ゴフマンに対する多様な解釈の原因となってしまっている。「状況次第のサンプリング」。
- 事例の適切性の問題
- フィールドワークや参与観察を多用する一方、根拠や経験的裏付けが曖昧な例示や伝聞、さらには小説などからの引用もおこなっている。社会科学として信頼できないような「まぜこぜの素材」。
→ゴフマンは事例に先立ち、研究の枠付け(不調和のパースペクティヴ)から類型(概念)を導き出す。理論的にあり得る類型だが該当する事例がない場合、フィクショナルな事例が用いられる。:概念の再検討やメタ分析として新たな研究を拡げるための一時的なデータ代用として捉えるべきもの。
cf. 反事実的な分析(因果関係をめぐる異なる角度からのチェック)、グラウンデッド・セオリー・アプローチの理論的サンプリング(架空の状況との理論的比較)
- フィールドワークや参与観察を多用する一方、根拠や経験的裏付けが曖昧な例示や伝聞、さらには小説などからの引用もおこなっている。社会科学として信頼できないような「まぜこぜの素材」。
- 概念の問題
フレーム分析
第6章 フレーム分析はどこまで実用的か
- ゴフマンの「フレーム」概念
- そのとき経験する活動や出来事を組織だったかたちで理解するに当たって人々が依拠する認知的な図式
であると同時に
コミュニケーション的な道具立てを使って協同の活動を組織化する際に人々が実際に用いる相互行為的な「状況の定義」。- 一方から見れば出来事と経験は枠付けされるし(framed)、他方から見れば私たちが出来事と経験を枠付けする(frame)。
- そのとき経験する活動や出来事を組織だったかたちで理解するに当たって人々が依拠する認知的な図式
- ゴフマンのフレーム分析アプローチの特徴
- 相互行為場面に照準
- フレームの変換とその重層構造に着目
- 「偽造」を分析
- プライマリー・フレームワーク
- 人々が現在進行中の出来事の経験を意味が通るかたちで組織化する際に拠り所とする解釈枠組
- フレーム変換
動物の「けんかごっこ」のように、「けんか」と「遊び」の二重のフレームが共有されてその活動の理解についての参照枠となるようなこと- 作りごと make-believe
- 競争 contests
- 儀式 ceremonials
- 技術上の見地からの再演や再現 technical redoings
- 基盤を取り替えた活動 regroundings
- 重層化
- フレームが変換されていると知っている参与者と知らない参与者がいて、知っている者は知らない者にフレーム変換の事実を気付かせないように情報統制を試みる重層化の様態がある。:「偽造」 ←「状況の定義」の差異的配分状態
- フレーム変換がさらに再変換することもあり得る。ex. 劇中劇、振り込め詐欺の啓発ビデオ、映画で歌手を演じる俳優のリハーサル
- 騙される側が偽造に気付かないふりをする・さらに騙す側がそれを気付いているが気付いていないふりをする …といった入り組んだフレーム構造の錯綜も起こり得る。
- 実用の試み
- フレーム変換や重層化についての類型や議論を経験的な事象の説明に使う試み
→固有の知見をもたらすには至っていない。- フレーム分析ならではの経験的成果を残したものとしては、社会学では希な実験という調査技法を用いたギャムソンらの事例:「宣伝会社がクライアント企業の利害のためにさせようとしているグループセッション形式の不正なバイト」という設定で用意された騙し実験
- 会話と相互行為の研究における実用
→EM/CA
- フレーム変換や重層化についての類型や議論を経験的な事象の説明に使う試み
- フレーム分析の方法上の難点
- 意義
- フレーム分析は、さまざまな「作りごと」のジャンルを成り立たせるフレーミング慣行の詳細を調べ記述・分析する作業に適しているように見える。