::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

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 “THE COCKPIT”






“THE COCKPIT ザ・コクピット
 監督 : 三宅唱
 2015





 音楽映画。それもとびきり純粋で極限的な。
 内容としては、あるマンションの小さな一室でヒップホップの曲がひとつできあがるまでを撮ったというもの。
 ドキュメンタリー映画ではあるんだけど、視点やシーンの編集というものがほとんどなくて、ワンルームの情景をいくつかの固定アングルでただ記録してるだけ。YouTubeの素人動画見てるみたいな。
 そういう意味では、映画という括りに入れるべきものなのかは迷うところ。コアすぎて一概に薦められない。ちょっと前に書いた「音楽映画ベストテン」http://d.hatena.ne.jp/LJU/20151101/p1の対象に入るか外れるかも悩ましい。
 これをおもしろいと思うかどうかは、マニアックなまでに音楽を愛好しているかどうかの区分けにそのまま重なる気がする。クリエイター系の人たち全般にも訴求すると思う。


監督は初の劇場公開作『Playback』(村上淳主演)が各方面で話題を呼んだ三宅唱。これまでとは別の映画づくりを模索するなかで、ヒップホップの音楽作りに刺激とヒントを求めて、今回の企画はスタートした。 いまやさまざまなジャンルに影響を及ぼすジャパニーズヒップホップのなかでも、ひときわ異彩を放つクルー「SIMI LAB」。そのMC/トラックメイカーであり、ソロとしても活躍するOMSB。そして彼と同じレーベルSUMMITに所属し、音楽シーンのみならずファッションシーンでも注目を集める「THE OTOGIBANASHI'S」のBim。クルーは違えど互いをリスペクトしあうふたりに、三宅唱が曲の共同制作を依頼し、二日間のその過程を記録。本作のなかでしか聴けない曲「Curve Death Match」が完成した。
(公式サイト http://cockpit-movie.com/introduction.html


 ――まずとりあえず集まってみて、まだ何のアイデアもなくてまっさらなところから始まり、いろいろな素材を試しながら、だんだん骨組みが決まっていって、リリックの基調を議論し、ラップをレコーディングして、ひとつの曲が完成する。
 すべてを余さず逐次的に映しているわけではないけれど、要所要所のエッセンスは網羅されてる。
 MPCによるブレイクビーツのトラックメイキング。サンプリングされたパターンをパッドによってリアルタイムで演奏して、試行錯誤しながら「かっこいい」トラックを追い求めていくところとか。
 2MCラップの基本的な方向性を決めるため、遊びまじりにブレインストーミングし盛り上げていくところとか。

  • これ、「ぜんぜん映画じゃない」とか「ただ撮ってるだけでほとんど編集もない」とかつい思ってしまいそうなんだけど、でも見終わってみると、「ヒップホップの曲がひとつできあがるまでの過程を映像化する」というとても難しそうな課題を最小限の時間かつ最大限の効果で果たせている、という感想を持つ。そうした点で、やはりこれはきちんと編集プロセスをくぐり抜けてきた作品であって、YouTube でありそうなアマチュア動画とははっきりした違いがある。
  • 特に制作過程での冗長な時間が撮れてるのがすごく価値あると思う。こういう時間が作品にとっていかに重要なことかが理解できる。
  • また、タイトルが端的に示しているように、すべてがこの狭い部屋のなかだけで完了するというところも良い。作品というものは別に快適で豪華な環境などなくても産まれ得るものなのだ、と。
    • そしてそれは何もヒップホップにかぎった話ではないはずだ。
  • クリエイティブ・アクティビティーにおけるコミュニケーション様態がよくわかるサンプルとしてもおもしろい。
    これ対象に会話分析したら、「作品制作」とか「芸術行為」というのがどのようなものなのかが見えてきそうな気がする。
  • その他メモ。
    • 「隣だいじょうぶかなぁ?」→それは観てる方としても実際そう思うところ。
       
    • 途中で一服しようと席を立つんだけど、「あ、今のそこすごくよくない?」みたいに声を掛けられて、あー、たしかにそうかもな、ってまた機材を弄り始めて結局またしばらく制作行為に没頭してしまうあたり。こういうのって、よくわかる。
       
    • 全体的に「それいいじゃん?」「これかっこいいよね?」みたいな会話が作品制作コミュニケーションにおける大きな要素となっていることがわかる。
      • 観てるこっちも「あー、それいいんじゃない?」とか「それはそんなによくないな…」とか思いながら観てしまう。
         
    • 「無の境地って、良くね?
       ……でもラップ乗ったら無になんねーしな」
      • これ、深夜の何でもおもしろくなってるハイテンションモード(作品内では日中の時間だったけど)みたいな流れで出たことばだったんだけど、でもけっこう深いこと言ってるな、って思った。(テクスト論あたりの観点で。)


公式サイト:http://cockpit-movie.com
 






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell