5th アルバム。昨年の “Solens Arc” からあまり間隔を置かないリリースとなった。
曲調としては、前作と同様にインダストリアル。
ただし、前作ではアンビエントでビートレスのトラックを混ぜて静と動の変化がある構成だったのに対し、このアルバムはBPMの緩急はあるものの基本的に全編でビートを伴っている。
またその他に特筆すべき事柄として、“Cory Arcane” という名の架空キャラクターをコンセプトとしていることが挙げられる。
このコンセプトがアルバム構成上、あるいは音そのものにどう関与しているかは聴いただけでは把握しがたいけれど、こうしたコンセプトを掲げること自体は、テクノ/エレクトロニック・ミュージックというものがどのように語られるか・記述されるかという観点から見て興味深い。
インストのエレクトロニック・ミュージック、そしてさらにそのなかのサブジャンルであるところのテクノというものは、歌詞のようなストレートに“語れる”要素を持たず、また、ミニマルを志向するため大きな弁別性をそもそも備えづらいと思う。そうしたとき、このアルバムのように何らかのテーマやコンセプトといったものを付属させることは、それが作品自体にリンクしているのかが誰にでも自明なものではないとしても、作品を記述する際の有効な機能として働く。
たとえばベルリンの GROOVE-Magazine のインタビュー。内容そのものというより、こうした戦略・手法が音楽にとってどのような意義があるのかという点でおもしろい。
このインタビューではまずコンセプトについての質問があって、作者本人についての語りにつながり(“You know, my personal story is pretty boring.”)、そこから David Letellier 自身にとってクラブとは何か、みたいな話になっていってカウンターカルチャーとしてのクラブの位置付けといった文化観が語られ、さらにはキャラクターがジェンダーとして曖昧な立場におかれていることについてだとか―― 要するに、単に音響的なあるいは技巧的な視座からは結びつかないような広範な話題が呼び起こされる。つまり本人がいみじくも語っているように “to express something more than music” というわけだ。
このテーマ/コンセプトが実際に成功しているのかどうかはともかくとして、作品を語るという局面で一定程度の作用を果たせていることはまちがいないと思う。
そういった意味で言うと “Cory Arcane” は、たとえば Arca のように音とヴィジュアル戦略・キャラクター性とが同一方向にあるタイプというよりも、Aphex Twin / Richard D. James が初期から既に纏っていた伝説性のように、音から直接想起されずそれでいて作品を性格付けるいわば外的なキャラクターといったタイプに近い。
音楽というものはジャンル/サブジャンルの進化系統樹的な図式で捉えられることが多いけれども、そうした見方とは必ずしも並行しない文化戦略的なタイポロジーやその歴史といった面もあることを何となく再考させられた。
特に銘記しておく曲
M-1 “acto”
M-2 “dark barker”
M-4 “these are my rivers”
M-8 “when we were queens”
M-9 “on sleepless roads”
Kangding Ray
Information
Birth name | : David Letellier |
Born | : 1978 |
Origin | : France |
Base | : Berlin, Germany |
Links
Official | : http://www.kangdingray.com/ |
Label | : raster-noton http://www.raster-noton.net/detail/index/sArticle/743 |