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 つくみず “少女終末旅行 4巻”






少女終末旅行 4 (BUNCH COMICS)







 静的な終末を目指す物語。
 この巻では、世界の現況を説明するあらたな情報が出てくる。
 高エネルギー体を安定処理し、都市/地球を不活性状態へ向かわせる存在。
 人間もその他の生物もことごとく消え去り、すべてが眠りにつくという終末像が示される。
 このようなイメージには、作者自身の “静かな終わり” を志向する気質を強く感じずにいられない。





 絵柄や表現については1〜3巻の感想のときにひととおり書いた。(→ http://d.hatena.ne.jp/LJU/20160625/p1
 今回は、舞台となっている多層構造の都市についてメモしておく。




階層都市


構造

  • インフラを内包した基盤殻層がいくつも上方へ重なってできている都市。
     各階層は垂直に重なっているわけではなく、上層がセットバックしている。
     だから外縁部では上に空が広がるし雪や雨も降る。


f:id:LJU:20161113202116j:image:w400:leftf:id:LJU:20161113202245j:image:h200:left 少女終末旅行 1巻 p120, 2巻 p156-157
 (C) 2014 tsukumizu

  • 内部がどこまで続いているかは不明。
     層の端部が「岸」と呼ばれていることから察するに、「内陸部」は相当大きいのではないかと思われる。
     “北へ離れると上層の影によって日照時間が著しく短くなる”
     少し奥へ入ればすぐ反対側の端部にたどりつけるようであれば「北」とは書かず「中央部」などと呼ばれるだろう。
  • こうした階層都市を建設した古代文明は既に滅亡しており、その後かつてのテクノロジーを失いつつも生き延びた人類が都市の残骸に住み着いて街を形成した。しかし一度復興した文明も、戦争による破壊活動の末に今また滅亡を迎えようとしている。
     そのため、都市には古代文明の遺物と現行文明の遺物とが混在している。
     都市のインフラや高度機械の残骸は古代文明のもの。20世紀技術でつくられているように見える兵器や器具は、復興した人類が古代の記録をもとに再現した模倣物。両者の違いは記された文字によって端的に把握できる。古代文明によるものは日本語や英語で書かれているが、現行文明のものはひらがなを崩したような文字で書かれている。
  • 高度テクノロジーでつくられた都市に寄生する現生人類は、日照を求め南岸に寄って生活していた。
     それでは内奥部は古代どのように利用されていたのか。
     少なくとも現在は自然光が届かず闇に閉ざされているようだ。以前は人工光で照らされていたのだろうか。それとも別の利用形態があったのか。
  • 都市の外がどうなっているのかもよくわからない。
     主人公たちの会話からは、どこかに「海」があることが示唆されている。
     都市の最下部が海面なのかどうか。
  • また「対岸」には、望遠鏡でかろうじて確認できる別の都市があるらしい。
     地球では、旅客機の飛行高度から見た地平線の距離は350km程度。基盤上に住居や街路が形成されるようなこの都市が対流圏上層まで達する高さとは考えがたい。都市が1,000m程度の高さと仮定した場合、都市同士が視認し合える最大地平距離は200km程度。
     以前は都市間を航空機で往還できていた。



f:id:LJU:20161113202244j:image:w400:left 少女終末旅行 2巻 p150-151
 (C) 2014 tsukumizu

  • 基盤殻層は断面から類推すると上下2枚のプレートでトラスを挟んだ構造。(ただし「空軍基地」室内の描写を見ると、必ずしもトラスが内部へ続いているわけでもなさそう。正確な描写にこだわっていないような感じもあるが……)
     階層全体のマクロな構造がよくわからない。
     各層には無秩序に林立する支柱のようなものが見られる。場所によって支柱の密度はさまざまだが、上層の荷重は一旦、各基盤殻層で受けているようだ。
     これだけの巨大構造物を形成するというのは事業としても壮大、一朝一夕に完遂するようなプロジェクトではない。その意味でも、各階層が力学的に完結しているのは理に適っている。単純に下から積み上げてつくっていき、できた階層から使用開始していったのかもしれない。(カナザワも上層の方があたらしいはずと推測している)
  • 連絡塔も上下の階層を結ぶだけで、3層以上の階層に渡って続いてはいない。つまり各階層は動線としても分断されている。
     ただし2巻の描写では、外縁部には3層以上に及んでいる斜行構造体も見られる。
     また4巻収載話に続くウェブ連載回では、最上階手前まで行ける昇降路の存在について触れられている。2巻ラストの都市外観からすると主人公たちはまだまだ途中の階層にいるわけだから、最上階まで到達するこの昇降路は多層間を超えてつながるものなのかもしれない。

なぜ階層構造なのか

  • 作品内論理での理由
    • 一般に超高層建築物が求められるのは、概して地上部に空間がない場合だ。高密度の都市のように。
       しかしこの階層都市の場合、底辺がどの程度あるのかが不明で、上層に行くほどセットバックしていることからしても、積層の面積的なメリットが曖昧。
    • 地上に空間が確保できない別の理由があるのかどうか。
       3巻では管理機械が「環境汚染」ということに言及している。
  • 作品外論理での理由
    • いまのところ各巻あたりだいたいひとつの階層というペースで進んできている。
       3巻〜4巻ではまだ上の階層には昇っていないかも。
       対話可能な存在との出会いが階層ごとに(巻ごとに)ひとつずつある。
       
    • 都市が格差構造を反映したものというわけではなさそう?
       各階層ごとで空間や機能に大きな違いはない。作中情景もほとんど変化がない。
       もしかしたら建設当初は上下で社会格差があった可能性もあるかもしれないが、現在ではそもそも住人が消え去っているし、物語として格差構造のアナロジーが語られている感じはしない。
       
    • 作中で「生きてるかぎり続く旅」というように描かれていたところもあり行き先が曖昧だったときもあったけど、結局は最上層を目指すことになっている。それは物語として明確なゴールだ。最上層に何があるかはまだわからない。少なくともそこに空が広がっていることは確かだろう。
    • なんともゆるく続く物語で、当初から人が消え去って文明がゆるやかに滅びつつあり、食料も綱渡りで、いつか途絶えたらそこが旅も人生も終わり、みたいな、徐々に薄くなって終わっていくような感じもあったけれど、世界に「最上層」があり、そこが今明確に目指されているというのには、物語としてはっきり結末を迎えようという意思が感じとれなくもない。

その他

  • どの階層にも戦争の痕跡がある。全階層に渡って繰り広げられた戦争?
     内戦なのか、外敵なのか。相手は他の都市か、他の種族か。
     固定された砲台もある。
     古代文明の兵器(人型の強力な戦闘機械)と、その後復興した文明が古代文明を模倣して復活させた兵器(戦車など)。
  • ところどころで出てくるマークが気になる。


f:id:LJU:20161113202315j:image:w400:leftf:id:LJU:20161113202448j:image:w400:leftf:id:LJU:20161113202316j:image:w400:leftf:id:LJU:20161113202336j:image:w400:left 少女終末旅行 3巻 p124, 4巻 p3
 (C) 2014 tsukumizu

  • 列車のスケール感から、その用途が人間の交通というよりも機械の移動や運搬といったものであることが推測できる。
     実際、車内には動かなくなった機械が放置されている。(なぜ時計が付いているのか?)
     取って付けたような後付けのベンチも人間の乗車が本来の用途ではないことを示しているようだが、一方で、人の身長程度の高さに空いた窓もある。明かり取りというより眺望なのだとしたら人の乗車がはっきり想定されているわけだし、そもそも駅の階段は人間に合った寸法となっている。
  • 4巻で出会った生物たちによれば、もうこの都市に人間はいない。
    「この都市」と限定しているので他の都市にはまだ人間がいるかも?
  • なぜあの位置に潜水艦が放置されているのか
  • 写真内で語られた「機械進化論」というのはひとつの手がかり。
     自律機械。
     いまのところ作品内には二種類の人工知性体がいる?
    • 機械系:都市の機能維持や警備、兵器。
    • 生体系:都市を静定させる存在。おそらく石像のモチーフであり、神格化されている。



描写

 描写については前回いろいろ書いたけど、いくつか追加。

  • やはり光と影の描写が特徴的。
     エスキースやデッサンといった素描的な線でありつつ、光と影の陰影は正確に描こうとしていることが感じられる。
     こういったタッチのキャラデなのに髪の毛による陰影が毎回必ず描かれているところとかも。
     作中事物が空間的にどのような位置にいるかが陰影によってはっきり意識される。
  • 他方、少ないけれども心理描写としての陰影もある。


f:id:LJU:20161113202400j:image:w400:left 少女終末旅行 4巻 p125
 (C) 2014 tsukumizu

  • 女の子ふたりの台詞は役割語を使わず話される。
  • 「…」が多い。




f:id:LJU:20161113202359j:image:w400:left 少女終末旅行 4巻 p60
 (C) 2014 tsukumizu

 “色々なくなっていくばっかだし…
  たまには増やしてみるのもいいかなって…”


 






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell