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 弐瓶勉 “人形の国 1巻”






人形の国(1) (シリウスKC)

人形の国(1) (シリウスKC)








 3月から連載を始めている弐瓶勉の新作第1巻。
 巨大な人工天体が舞台。不壊の殻層を絶対的境界として、高度技術を擁した制御中枢と、かろうじて生存する地表面の人類という二極へ分化した世界。地上を制する〈帝国〉は殻層内への侵入を目論み、古代技術で超人的能力を獲得した〈人形〉たちを何体もつくり出していたが、未だ目的を果たせずにいるという状況。
 そんな折、均衡を打破し得る力を持った遺物が出現し、〈帝国〉の執拗な追跡で惨劇が引き起こされる。巻き込まれた主人公は〈人形〉へと転換し、〈帝国〉への復讐を決意するに至る…… という物語。
 本編前の外伝が読み切り企画で描かれている。http://estar.jp/.pc/work/comic/24133589






  • 物語技術
        • 構図・設定が単純明快で、読み手を物語へ引き込ませる。展開や描写にも緩急があって刺激的。絵柄も含めてやはり初期作品から毎回着実に進歩していると感じずにいられない。
          特に人物がどれもすごく描き分けられ、性格も外見でよく表現されている。

  • 濃淡描写
        • 全体的に淡い光に照らされた光景。白色が目立つコマにどこかしら薄い陰が掛かっていて、安定した天空光のなかでわずかに照射方向の差が感じ取れるような。
          陰はどれも同じぐらいの明度で、屋外でも室内でもだいたい15%グレー程度で統一されている。輪郭のぼやけた線画の一部にこの薄いグレーが少しだけ塗られている、といった絵。血や髪の色など、他に塗りが施されたところがないわけではないが、作品全体としてはホワイトアウトしたような感覚が支配的。
        • そのなかで、正規人形たちは服/鎧が50%グレーぐらいの少し濃い色を塗られ、はっきりと区別されている。

  • 種族設定
        • 正規人形たちは人のかたちをしてはいるが実質、人間とは言えない。
        • コードによる転換にしろ人形病にしろ、人間が〈人形〉となる仕組みはよくわからないところがある。

  • 対立構図
        • 〈帝国〉は無慈悲な侵略者である一方、人間を外部へ追いやった〈中枢〉に対する反逆者でもある。
        • タイターニアは主人公の協力者。その能力は制限されているが、本来、最上位技術に通じる中枢に属するエージェント。

  • 人物名称
        • ネーミングが過去作品と比べて特徴的。どのキャラクターも徹底して無国籍造語的な名前で、現在の地球との時間的な隔絶が感じらせる。
        • “タイターニア” という名だけが異彩を放っている。「妖精の女王」が含意されているであろうこの名前は、他の固有名と異なり、旧文化とのつながりを示しているのかもしれない。
          定命の人間を傍観する超越存在にふさわしい名。

  • 絶対機能
        • どんなものであっても貫くことはできない超構造体と、どんなものであろうと貫ける対超構造体弾。この「盾」と「矛」には明確な優劣があり、後者が前者を凌駕する。(本作品ではさらに「準」超構造体なるものまで出てきたりする)
        • 弐瓶勉の各作品には名称が同じで微妙に異なるものが登場することが多いが、「あらゆるものを貫通する兵器」というのはわりと一貫して中心的に用いられているところがあって、物語構成上のポイントであると覗える。
        • 照射さえ為されれば確実に射線上のすべてを貫通・消失させる機能。
          この場合、物語上起こり得る選択肢は「当たるかどうか」「発射されるかどうか」「いつ用いられるか」といったことだけに限定されてくる。「当たったところは消失する」という絶対的確実性は作品内で決して覆ることがない。こうした機能上の性質が物語において強い論理的条件となり、展開にも影響してくる。
        • 本作品の場合、弾数の制約があるというのが大きな特徴。
          ふつうに考えると、物語全体はこの弾が尽きるまでを描くことになるはず。『シドニア』でのカビザシのように途中から弾数制約が取り払われる可能性もあるかもしれないけど、たぶんこの作品の場合は、残数制限に対し「いつどのように使うか」という主人公の決断が物語の駆動要素になっていく気がする。















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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell