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Julia Holter “Aviary” (2018)



AVIARY/2CD MINI-GATEFO






 LAのコンポーザーによる 5th アルバム。
 シンセの他に、弦楽器やトランペット、バグパイプなど生楽器をさまざまに用いたオーケストラルなサウンド。全編に渡り彼女自身のヴォーカルを最大限に活かした楽曲づくりがなされている。


 各曲は少しずつ印象が異なるけれど、どこか中世風な雰囲気が共通している。アルバムを通して聴いたとき、ひとつの映画を体験したような感じがある。実際、15曲・90分という長さはちょっとした映画並でもある。ヴォーカルの存在が強いことを考えると、むしろ歌劇というべきだろうか。
 曲構成には緩急があり、穏やかではありつつ情熱を込めた局面もあって、曲調が変化する。それでも常にヴォーカルが曲を牽引していて、そこに根幹を成す一貫性が担保されている。
 いくつかハイライトがあるけれど、予兆的な幕開けである M-1 “Turn The Light On” の直後に始まる M-2 “Whether” がとりわけすばらしい。マーチのようなリズムで前傾的に進むサウンド、一語一語はっきり発するように、短い語を連ねていくヴォーカル。歌詞と歌唱と演奏の統合が、この上なく崇高。
 他に山場となる曲は、M-8 “Underneath The Moon”、M-11 “I Would Rather See”、M-12 “Les Jeux To You” あたり。特に “Les Jeux To You” はヴォーカルの多重構成が華麗で、後半の曲の中で強い印象を残す。


 アルバムタイトル “Aviary” は「鳥小屋」という意味で、レバノンアメリカ人の作家 Etel Adnan による次のフレーズから引用されたもの。

I found myself in an aviary full of shrieking birds.(気付けばわたしは、甲高く叫ぶ鳥でいっぱいの檻のなかにいた)

 プレスリリースによると、ここで意図されているのは、絶え間なく政治的腐敗や災害に見舞われ、利害や怒りで叫び合う現代社会のメタファとのこと。おそらく、ネット上での主義主張の闘争状態とそれに対するフラストレーションを念頭に置いている。つまり、“tweet(さえずり)” が極端化したものが “shriek(金切り声)” だと言いたいのだろう。

 とはいえアルバムにそういった憤懣や鬱屈が表れているわけではない。
 歌詞には暗示や隠喩が多く、一聴してもよくわからないところがある。解釈や分析といったものが必要なタイプの歌詞だ。M-4 “Voce Simul” などはラテン語で歌われている部分もあるし……。
 ただ、M-7 “I Shall Love 2”・M-14 “I Shall Love 1” は比較的ストレート。それぞれアルバム前半と後半のクライマックスに当たる位置にあることも含め、この “I Shall Love” という句こそが、玄妙な全体にとってのひとつの結論なのかもしれない。

There is nothing else. I am in love.
Do the angels say “I shall love” ?”

 英語でも日常であまり使われなくなっている “shall” という助動詞。この語に伴われる神的・宗教的な含みというものが、ここではあますところなく効力を発している。






Julia Holter
Information
  Birth name  Julia Shammas Holter
  OriginLos Angeles, California, US
  Current Location   Los Angeles, California, US
  Born1984
  Years active  2008 -
 
Links
  Officialhttp://juliaholter.com/
    SoundCloud  https://soundcloud.com/juliaholter
    Twitterhttps://twitter.com/JULIA_HOLTER
  LabelDomino  http://www.dominorecordco.com/uk/news/06-09-18/julia-holter/

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―Angela Mitchell