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“シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇”






“シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇 EVANGELION:3.0+1.0 THRICE UPON A TIME
 総監督 : 庵野秀明
 2021


「これまでのすべてのカオスにケリをつけます」

 劇中でミサトが宣するこの言葉こそが本作品の意義と作り手の覚悟を示している。
 この映画の価値はそれ以上でもそれ以下でもない。どう決着がついているかは問題ではなく、決着がついた(ことになっている)という事実が重要だ。言うなれば遂行的発話。つまり「決着をつける」というのは真偽を語る文ではなく、発話によって行為を実現する文である。
 『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇 』という作品もこの遂行として要約できる。



[以下ネタバレ含む]

 鑑賞後の率直な感想を表すに当たり、どうしても「俗」「凡庸」という語が最初に浮かび上がる。
 歴代最長となる155分という時間の前半は、濃密な世俗描写に費やされる。ポストアポカリプスでのサバイバル、クラスメイト同士の結婚と子育て、厳しい環境のなかで助け合いながら生きる人々。……実写邦画の教科書を見せられているような俗性がひたすら続く。
 そして打って変わって一気に超常的状況へ飛び込んでいく後半も、過剰に肥大化し続ける設定語彙を払って見てみれば、結局のところエディプス的構図、死別からの回復という凡庸なテーマに整理できてしまう。
 終幕では「社会人」となった主人公が「大人になった」と評価され、アニメ絵が実写背景に溶け込んでいく描写によってリアリティへの接続が示されるという、これもまたよくあるプロット形式だ。


 物語として、何となく終わることができたようにはできている。これまで2度おこなわれそのたびに「失敗」した幕引きを今度こそ成功させるという試みは、一応果たされている。
 ただし、すっきりしているとは言いがたい。
 完全に論理崩壊し過去全作を冒涜するようなかたちで終わった SW9 と比べればマシではあるのだが、『エヴァ』の最後となるこの作品の感想を書くのは難しい。終わったという事実を淡々と記録する以外にすることがあるか、というと何もない気がする。
 少なくとも、考察や内容分析をおこなうことは無意味と思える。槍がどうとかL結界とか裏宇宙とか、制作者サイドではきちんと考えて設定しているのだろうけれど、鑑賞者がそれらを真面目に受け取り深く考える必要はないだろう。『Q』の時点で既に、辻褄合わせ・整合性のための設定修正は飽和していた。

 では、物語としての勢いや感情駆動の仕掛けがうまく機能しているかどうかと言えば、それなりにそうした要素は配置されているのだが、設定の空回りによってどうしても支障が生じており、たとえばヴンダーで新たな槍を生成するためクルーが一丸となって努力するところも、まったくこちらの心を動かさない空虚なものになっている。
 フィクション/リアルの区別を意図的に示すメタフォリックな演出も後半の大きな位置を占めているが、これも食傷の域を出ていない。
 一方で、こうした「反省的視点」なしに最終作品を描くことはできないことは、皆わかっている。
 つまるところ『エヴァンゲリオン』というシリーズは、挑戦・失敗・破綻・再挑戦の繰り返しであり、25年という歳月をかけたその全体に意義がある。『シン・エヴァ』単独で見たとき、その作品内容は壮大を装った凡庸であり、驚きも新奇性も感動もなく、アニメとして、あるいは物語として失敗作だと言わざるを得ない。しかしこのシリーズは挑戦と失敗が裏表に合わさった一体というところに価値があるので、そういう視点で見るならば『シン・エヴァ』による俗な完結は紛うことなく成功している。TVシリーズが、旧劇が、『Q』が、それぞれ失敗作であることによって成功したように。


 本作品で特記すべき点はマリというキャラクターの存在だろう。『シン・エヴァ』が前2回の試み(TV、旧劇)のような終わり方にならずに済んだのは、やはりマリの貢献が大きい。TVシリーズおよび旧劇に登場しなかった唯一の主要人物、挑戦と失敗の円環に対する侵入者で純然たる異物たつこのマリこそが救い手となり、締めの役割を担うことができた。(おそらく『序』『破』『Q』まではこの結末は意図されていなかっただろうと推測している)
 もしマリのキャラクター造形や行動展開をもう少し違ったものにしていれば、新劇シリーズは物語としてもっときれいで整理したかたちで完成できたのではと思う。そして、そうならなかったことも含めて、やはりこの「完全性」に至らない中途半端なあり方こそエヴァにはふさわしい。

 こうしてまがりなりにも決着が果たされた。
 であればわたしたちはもはやエヴァにとらわれることなく、まったく新たな未来へ進むべきだろう。



オフィシャル:https://www.evangelion.co.jp/final.html
IMDb : https://www.imdb.com/title/tt2458948/






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―Angela Mitchell