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サイモン・エヴニン “デイヴィドソン──行為と言語の哲学”





 デイヴィドソン哲学の入門的解説書。
 デイヴィドソンの論文は哲学の専門的内容を前提として圧縮された議論が展開し、非常に難解であることで知られるが、本書はデイヴィドソン哲学の全体像を捉えながら、明瞭な解説でその体系的思索を追っている。


  • デイヴィドソンの主たる関心:「言語」「心的なもの」「行為
    • これらはすべて「寛容の原則」に従っている:合理的な人であればまさに合理的であるがゆえに受け入れることになる原則

  • まったく異なるふたつの構想
    • 因果と説明に関わる構想:行為の説明や行為の産出、心身関係など、心の哲学の主題を、出来事と因果という基礎的概念で探求しようとするもの
    • 解釈(学)的構想:意味の理論、根源的解釈、言語的全体論など、 言語哲学の諸問題


 1. 心的なもの、行為
    心的なものについての非法則論
    • デイヴィドソン哲学の支柱のひとつである主張:心的なものは非法則論的である。「心理物理法則」というものも「心理法則」というものもない。(非法則論的一元論・非還元的唯物論)
    • デイヴィドソンは行為心的とみなしている。それは、ある人がいかなる行為を遂行しているかを述べるときには、単に身体がどのように運動しているか述べるときとは異なり、われわれがすでに解釈に立ち入っているからに他ならない。
    • 欲求があるかどうかは、実際にそれによって行為がおこなわれたかどうかが重要な決定要因になるが、それがすべてではない。欲求と行為はそのいずれもが行為者の解釈のなかに現れ、それゆえ、全体論的な織物の一部分として互いに関係しあっている。

    出来事・因果・因果的説明
    • デイヴィドソンの研究の最も重要でオリジナルな側面のひとつは、心的なものについての非法則論という立場を、これまでそれとは両立不可能と思われてきたふたつの見解と両立すると主張していることにある。
        1. 人が行為を遂行したときの理由はその行為の原因である
        2. 心的状態は物的状態と同一である
    • 原因と、原因を記述するためにわれわれが見出す特徴とを明確に区別しなければならない。(出来事と、それを選び出すために用いられる記述の区別):デイヴィドソン哲学の根幹に位置する

    行為
    • 哲学者がこれまで心理法則を確立しようとしてきたのは、心理法則が存在するなら、人はどのような心的状態にあるのかということを行為から推論する科学的営為の可能性が開かれるからである。
      だがデイヴィドソンは心的法則を否定する。
    • デイヴィドソンによれば、行為と心的状態は、しっかりと噛みあいながら全体論的ネットワークを形成している。
    • 行為は、理由があって遂行された出来事である。行為は意図的になされる。意図的であるということは、出来事それ自体ではなく、何らかの仕方で記述されている限りにおける出来事を限定している。
    • デイヴィドソンの初期の論文『行為・理由・原因』の主な功績のひとつは、行為のための理由と、行為を遂行した理由を区別したしたことにある。
    • 「心的なもの」「出来事・因果・因果的説明」がどのように結びついているのか:解釈においては、行為者に帰属される心的状態に結びつけるような仕方で、ある出来事が記述されている。その出来事とは、行為者の意図的行為にほかならない。因果は出来事の間に成り立つ関係であるから、こうした行為が他の心的出来事と因果的に関係していると考えるのは自然である。

    心と物
    • デイヴィドソンによれば、心的なものとは、存在論的範疇ではなく概念的範疇である。
    • 出来事を心的出来事や物的出来事たらしめているのは、それが心的記述や物的記述を持つか否かなのであり、出来事は本来、物的でもなければ心的でもない。


 2. 言語哲学
    意味と真理
    • 意味の理論に対するアプローチのうちコミュニケーション-意図理論(後期ウィトゲンシュタイン、オースティン、グライス)では、意味は言語の使用と使用する人の意図を経由して姿を現さなければならない。文を使用する「言語行為」、言語はどのようにして社会的文脈に埋め込まれているのか、文の意味は使用されるときの意図にどのように依存しているのか、ということに力点が置かれる。
      このアプローチでは、文が何を意味しているのかを述べるためには、まず文の使用者の心的状態について詳細な特徴づけが可能でなければならない。
    • デイヴィドソンはコミュニケーション-意図理論を拒否する。
      デイヴィドソンによれば、心的状態はどのようにしてその内容を獲得するかという問題と、文はいかにしてその意味を獲得するかという問題は相互依存的である。思考によって言語的意味の説明が可能になると考えることはできない。
    • 問題は、「〜は、……ということを意味する」という語句を使用することから生じる。
    • デイヴィドソンの意味の理論は、タルスキの真理理論を形式的基盤として用いている。

    • 規約T(タルスキ)
       (T) sが真であるのは、pのときまたそのときに限る 
      ここで ‘p’ は s と同じ文か、もしくはその翻訳になっている。
      規約Tを適用できるためには、‘p’ は s と同じであるか否か、あるいは s の翻訳であるか否か、それがわかっていなければならない。タルスキは意味もしくは翻訳という概念を用いて真理概念を解明している。
    • デイヴィドソンの試みはタルスキと逆で、真理理論を意味の理論として用いること、換言すれば、真理概念を用いて意味という概念を解明しようというもの。
      T-文は (T) の形式を備えてはいるものの、‘p’ は s と同じであることも、またその翻訳であるということも、要求されてはいない。
      「〜が真であるのは、……のときまたそのときに限る」を、実質的には「〜は、……ということを意味する」になるように読み直そうというわけである。
  •  (T) S が T であるのは、p のときまたそのときに限る(s is T if and only if p) 
    「雪は白い」という文が、雪は白いときそしてそのときに限って持つべきものとして要求されるような性質とは、どのようなものであろうか。
    それは真理に他ならない。「Tである」を「真である」と解釈すれば、‘s’ を文の名前、‘p’ をその文自身で置換して得られる (T) の個別例はすべて真になる。
      • cf. ハッキング『言語はなぜ哲学の問題になるのか』p221
        • このことから、真理の理論とは翻訳の理論である、と言うことができるように思われる。それでは、それは結局意味の理論であるということにはならないのであろうか。意味の理論とは、或る公共的な何ものかについての理論、すなわちフレーゲによれば、一つの世代から次の世代へと伝えることのできる何ものかについての理論である。もしも真理の理論および翻訳の理論が、私に、言語において公共的なものと認められるすべてのものを理解する方法を与えてくれるのであれば、その場合には、それは意味の理論であるであろう。

    根元的解釈
    • 意味の理論が言語に対して本当に適用できるのかどうかは、どのようにして経験的にテスト可能となるのか。
    • クワインはまったく未知の言語との翻訳状況を想定し、文への同意・不同意でテストすることを考えた(「根源的翻訳」)。デイヴィドソンも同様に未知の言語を解釈する状況を想定し、話し手がどのような条件のもとでいかなる文を真とみなすかについての事実が意味の理論の証拠だと考える(「根源的解釈」)。だがデイヴィドソンはクワインと異なり刺激意味という概念を拒絶する。
    • 根源的解釈においては、解釈の対象はわれわれが真とみなすことをだいたいにおいて信じている、と仮定しなければならない。:「寛容の原則」
    • デイヴィドソン:「言語というものは、もしそれが多くの哲学者や言語学者が想定してきたようなものであるとするならば、存在しない」
      →公的な解釈を個人の解釈に優先させることを拒絶。
      デイヴィドソンの主張によれば、コミュニケーションにとって規約は必要ではない。コミュニケーションの成立に必要なのは、一方がある文を使用したときに、他方がその意味を理解することだけである。 →最近の論文でデイヴィドソンは解釈の状況を「先行理論」と「当座理論」によって特徴づけている。
    • ある言語に対する特定の真理理論が正しいのは、その理論に従ったときに、寛容の原則が要求するまさにそのとおりの仕方で、その言語の話し手が信念と欲求と意味とにおいて合理的となる場合である。
    • 人の言語の意味を決定するものは何かという問いと、人の心的状態の内容を決定するものは何かという問いに単一の解答を与えることによって、デイヴィドソンは可能な限り最も強力な方法で言語を心的なものについての研究に結びつけている。





 






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell