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弐瓶勉 “人形の国 9巻”


 全9巻で完結。
 最後かなり駆け足で、ところどころ場面もスキップしながら決着に向かう。シリーズ前半の台詞と微妙に辻褄が合わないところもあり、最終巻だけ展開を急いだ印象は拭えないけれど、これまで準備された構図は回収されて、物語はきちんと終結する。

 前作の『シドニアの騎士』が「ロボットもの」であったとすれば、『人形の国』は「変身ヒーローもの」で、『ABARA』の方向性をより洗練させた作品だったと思う。AMBという絶対的な武器を持ちつつ、さまざまな能力を持つ敵と戦い続け、ラスボスを追い求める……というように、物語としてはとてもわかりやすい。

 AMBは、どのようなものも貫通し、超構造体に唯一通用する武器であり、さらに時空に穴を穿ち未来を改変するという三重の絶対性を備えている。
 その弾数が限定されていることは、物語内で大きな役割を持っている。ちょうど弾が尽きるところで物語も終わるのだろうということが示唆され、時間進行に明確な指針を与えることになっている。
 弾は7発。そのうちの3発が6巻まで、残り4発が9巻で使われる。

    • 1巻・対エイチ戦:初めてAMBを使用。
    • 4巻・ジェイト狙撃:この後、未来改変の可能性に皇帝が気付く。
    • 6巻・超構造体内部からの狙撃:二度目の未来改変。エスロー側もこの能力を知る。
    • 9巻・対ヌーキー戦:ワサブの死を伴う狙撃。
    • 9巻・対艦攻撃1発目
    • 9巻・対艦攻撃2発目
    • 9巻・対皇帝:攻撃は外れ、AMBを奪われる

 AMBの持つ絶対性、特に未来改変という力は、皇帝の思惑を越える結果をもたらすという意味で、プロットを直接左右する機能を持っている。
 配分として見ると最終巻の展開が急激であることがわかるが、それはそれとして、AMBというガジェットが物語のカウントダウンを進めるとともに、発射されるたびにその機能を少しずつ露わにし、プロットを展開する働きを担わされていることがよくわかる。


 描画も特筆すべき点。
 全体的に抑制的で、最小限の線で表現されている。コントラストが弱い。黒色の使用が抑えられている。初期はまだしも黒が使われる個所があったけれど、後半でははっきりと減っていく。黒色で特徴付けられていたケーシャの髪も、第16話から突然グレーに変わっている。
 最終巻ではついに、ちょっとした黒色すら使用されなくなる。例外は、エピソード間に挿入されているロゴ、カジワンが意識を喪失して降りる帳、そして皇帝が予知に見た闇だ。こうしたところを見ると、使用対象を意識的に選択している特別な色だと感じる。

 風景という面では、どこまでも広がる地表面とその上を覆う空という対照が強く印象を残す。
 巨大な人工天体という舞台がそのまま表されている。寒冷でほとんどは無人、動くものは人工機械。濃淡の違うグレーで塗り分けられた線画が、荒涼とした光景に合っている。地表面の下にはメカニカルな構造物が埋め尽くし、はるか底へ続く。

 淡泊な絵のなかにあって、バリエーションをもったキャラクターたちが彩りを持っている。
 キャラクターの描き分けは『シドニアの騎士』よりも強くなった。
 最終巻、あらすじページ前の一枚絵でのタイターニアは、これまでの弐瓶勉作品を連ねたなかでも最も尖端的位置にある画風のものだと思う。


 






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―Angela Mitchell