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 Anselm Kiefer “Aperiatur terra” 26 January - 17 March 2007





Anselm Kiefer “Aperiatur terra” @ White Cube
 



 アンゼルム・キーファー。
 Mason's Yard での展示の他、近くの Royal Academy of Arts の中庭にも巨大なインストレーションが置かれている。
 最近見たもののなかでもっともインパクトがあった。
 とくに Royal Academy of Arts での“Jericho”。
 夕闇で見たというのも影響しているかもしれないけど、とにかく迫力があった。



 プレスリリースによると、“Aperiatur terra”というタイトルは「イザヤ書」からの引用であり、“let the earth be opened”を意味する。これに“and bud forth a saviour and let justice spring up at the same time”という句が続く。



Palmsonntag
 まずギャラリーの1階に、“Palmsonntag”と名付けられたインスタレーションが展示されている。
 部屋に入ると最初に目に入るのが、床に大きく横たえられているシュロの木であり、ほぼ枯れた状態でありながら存在感をもって室内を占拠している。頂部の葉から根に至るまで土色で、生気はなく、あたかもつくられた彫刻のように見える。
 室内長辺の壁には、ガラスの額に入れられた平面的なオブジェクトが上下二列に渡って一面を覆い尽くしている。その数は合計で18。額の内部は基本的には絵画であるが、植物の断片や土のような物質を伴っており、物象性の強いコラージュとしての様相を呈している。天井の高さは約5mといったところ。床からこの高い天井までいっぱいに二段の額が占めていることから作品の大きさが推して知れるだろう。
 プレスリリースにあるように、それはあたかも開かれた本のページが並んでいるかのように見える。つまり個々の額はそれぞれ、本の挿絵のようなものであり、何かの物語を語っているわけだ。実際、素材やつくられ方は共通しているものの描かれている“絵”はさまざまであり、明示的ではないだけに、より想像を喚起させる。
 非常に物象性が強いため、近くに寄ってみるときわめて精細なディテールが見てとれる。離れて見れば、壁面を覆う大きさで展開する全体としての迫力がある。ズームアップしてもズームインしてもスケールに応じた感触が現れる。



Aperiatur Terra et Germinet Salvatorem
Olympe
Rorate caeli et nubes pluant iustum

 地下に降りると、大きな部屋の三方の壁にそれぞれひとつずつ絵画が掛かっている。その幅は6mから8m程度、高さは共通して2.8m。
 描かれているものは、パースペクティヴのかかった風景画のようなもので、これもまた近付くと豊かなディテールが現れる。塗りたくられた油彩のマチエールは、近接して見ると暴力的とも思えるほど粗く起伏に富んでいて、ひび割れた地面のような部分すらもあったりする。それはたとえば、風景を眺めているときに足元を見ると地面や植栽が目に入って、風景を構成しているものの実体を知るような、マクロとミクロとのそれぞれ対比的な体験を可能にする複雑さを内包している。
 3つの絵は同じようなモチーフとして描かれているものの、色や大きさなど、細部は微妙に違っている。タイトルもそれぞれ異なり、“Aperiatur Terra et Germinet Salvatorem” “Olympe - Für Victor Hugo” “Rorate caeli et nubes pluant iustum”と名付けられているが、全体としてはひとつのインスタレーションを構成することが意図されている、とある。



Jericho
 Royal Academy of Arts の中庭には、“Jericho”という名の巨大なインスタレーションが展示されている。これはシリーズ作品として構想されているようで、彼の拠点であるプロヴァンスでも同様の作品がつくられたらしい。
 作品はふたつの塔から成っていて、高さは17.5mと15m。コンクリートの壁と床とを粗く積み上げた構成。最下部では内部に入ることができて、そこから上を見上げると、積み上がった床はそれぞれ穴が開けられており、空まで見通すことができる。

 

 この作品の何が驚異的かというと、巨大な量塊が、非常に無造作に積まれてつくられているということ。各部の隙間にゴムのようなものが詰められていたりするのがとても危うげだ。地震が来たらすぐ崩壊しそうな。いや、何もしなくてもちょっと押せば崩れそうな...。その不安定な構造が、見る者に強い緊張感を与える。戦争によって破壊された廃墟のようにも見えるし、おとぎ話に出てくるようなデフォルメされた塔や城のようにも見える。いずれにせよこの作品が持つ存在感は並大抵のものではない。
 ちょっとした刺激で壊れてしまいそうな構築物、しかも中に入ることができて、建物が崩れて下敷きになってしまいそうな不安感を感じながらも恐る恐る内部を見上げると、破壊されたかに見える床の開口部を次々と通して小さく空が目に入る。

  

 アートとは何か、ということを考えたとき、その歴史だとか文脈だとかを観察の際の条件にするのではなく、そういったものなしで単純に鑑賞者に強烈な印象を与えることが原初的な条件だよなぁと思った。
 ギャラリーの方にあったインスタレーションや絵画作品も感銘を受けたのだけど、この“Jericho”に関しては、特に付属する説明とかなくても誰でも何らかの強い体験を得るだろうという意味で重要に感じた。




 
 なんか絵みたいに見える写真だけど、ほんとにこんな感じ。デッサンの狂った建物みたいなつくりになっているので。
 カメラの性能がよくないのも多分に作用しているが。




 キーファーって、巨匠、だとか、ドイツとか宗教とか戦争とか、断片的なイメージしか持ってなかったけど、実際に見てこれほど迫力があるとは思いもよらなかった。
 ギャラリーの作品については、とにかく巨大なスケール、なおかつそれが精細な表層を持っていること。
 “Jericho”の場合は、いかにしてある空間が強い印象を与えることを可能にするか。
 というのをそれぞれメモとして記しておく。



White Cube
 25-26 Mason's Yard, LONDON SW1Y 6BU
 Piccadilly Circus, Piccadilly and Bakerloo Line
 http://www.whitecube.com/






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell