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 “センコロール”






CENCOROLLセンコロール
 監督・脚本・作画 : 宇木敦哉, 2009




 おもしろかった。
 声優・音楽以外をほぼ一人で手がけている短編SFアニメ。東京都によるアニメクリエーター支援プロジェクトにより制作に至ったもの。たった30分の作品だけど、スタイル・雰囲気・キャラクターなどに、他のアニメでは見られないような新鮮なものを感じた。



 現代日本らしきある町に突然あらわれるようになった奇妙なモンスターと、彼らを操る少年たち、およびその戦闘に巻き込まれる少女。というように、基本的な舞台仕立ては明確なのだけど、でもそれがすべてであって、詳細に関する説明はまったくない。このモンスターたちはどこから来たのか? 目的は何なのか? 背後に別の企みや計画はあるのか?……などの、語られても良さそうな事柄には触れられない。短い時間による制約でもあるだろうけれど、ストーリーの背景を成す設定や描写がぜんぜんないということで必然的に、より表面上の事柄に意識が向けさせられてしまう。
 そこには大きくふたつの特徴があると思う。
 まずは、動き、造形。
 3体登場するモンスターたちは、ミュータントのような不気味さとペットのようなかわいさとを両義的に備えている。それぞれ固有の能力を持っていて、かなり超絶的な存在のようなのだけど、彼らの戦闘の描写が迫力あっておもしろかった。特に、モンスターたちのぐにゅっとした動きが臨場感ある描かれ方で、生理的な気持ちよさを感じる映像だった。ただし、やはり30分という時間では少し物足りなくもあり、もう少し延々とバトルを見ていたいという気にはなる。

 もうひとつは、キャラクターの類型に関して。
 登場人物たちの台詞回しやその行動の投げやりというか気怠げなところが、いかにもなクリシェ的なクールなキャラとも違うあまり見ないタイプのもので、そこが気に入った。テツやシュウの場合は、これだけの強大なモンスターを使役する能力を持っているための余裕のようなものと説明できるのかもしれないけど、内情を知らない一般人として異常事態に巻き込まれてるユキもそのわりにはマイペースな落ち着きを見せていて、全体的に、生じている出来事に比べて妙に温度が低い雰囲気が俺としては心地良い。
 ただ、ユキはともかくテツとシュウは、一歩間違えれば中二病厨二病)的な──いや既にその域に入っているかも?──キャラだったりもする。だって、固別の特殊能力を持ち同類以外にはほぼ無敵のモンスターを自由に操る能力、なんて、中二病的夢想の典型じゃない? だけど、それにもかかわらずこの作品の全体を通して感じられるのは因襲的なアニメとはまったく違う印象だというのが不思議だ。変に深い詳細設定で説明付けることをせずにビジュアルだけで説得力を持たせているというのが良いのだろうか? いや、俺はいつもは小説だろうと映画だろうと、SFの無駄に細かな設定は大好きで、それさえしっかりしてればキャラクターとかプロットなんかむしろどうだっていいって極論できるぐらいではあるんだけど……。センコロールは自分の主要な趣向とまったく正反対なのに、おもしろかった。


 この作品に、既存アニメの文法に沿ったところやどこかで見たような表現がまったくないとまでは言わないんだけども、それでも、全体的な雰囲気・スタイルというものがいわゆるアニメ的なものからわりと自由に離れていることは確実に言える気がする。アニメ的なものとは何か、っていうのも難しい問題を孕んでいるが...。たとえば、「バスカッシュ」というアニメは相当に既定のスタイルから外れたものだとは思うんだけど、それでもやっぱりアニメっぽい部分を払拭してるまではいってないとも思う。言いたいことが自分のなかでもまだ不明瞭なんだけど、それは、娯楽作品として完成されているかどうかの差異かもしれない。センコロールと同じように個人製作としてつくられほぼ同時間尺の「ほしのこえ」を比較に挙げるならば、SFアニメの王道的な設定・ガジェットやキャラクター類型もさることながら、ストーリーとしてきれいにできているという完成度の高さ、逆に言えば未完成の部分の少なさによって(あってもせいぜい技術的な話だ)、「ほしのこえ」と「センコロール」には正反対の印象を感じる。簡単に言えばセンコロールの場合には、端的に「なんだかよくわからないけどすごい」っていう感覚を覚える。
 だから、この作品を見ての感想はほんとうはたったひとつだけで、それは「2時間とは言わないからせめて1時間ぐらいのもうちょっと長い映画を見たいなー」ということなんだけど、もしロングバージョンをつくることがあるなら、いろいろ説明過多になってしまうよりかは、同じようにどこか意味不明のまま突き放してくれる部分を残してほしいなって思う。




以下は、予告編というより、製作に向けたパイロット版。
本編の映像を用いた予告編もあるんだけど、短い映画なんで、それ見るとけっこうな割合を見てしまうことになるから...。


www.youtube.com


official : http://www.cencoroll.com/












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―Angela Mitchell