::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

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 パオロ・バチガルピ “ギャンブラー”



“The Gambler”
 2008
 Paolo Bacigalupi





 近未来。それも、2〜3年後には実際にこういう世の中になっていても全然おかしくない、というほどに“近い”未来設定。作中で何か劇的にイノベイティブなテクノロジーが登場しているわけではなく、今もう既にあるものが少しばかり先鋭化しているだけ。
 具体的に言うと、ニュース・メディアが報道記事をネットに上げるとその反応がリアルタイムで把握できるデバイスがそれで、作中で出てくるSFガジェットらしいものといえばこれぐらいしかない。
 ニュース・コンテンツのアクセス数と影響度。それらに連動する広告収入、株価、そして記者へのボーナス額、と。
 テクノロジーそれ自体は目新しいものではなくても、「情報」が社会にどのように消費されるかという一連の視覚的な描写が、この作品の特長。
 
 一方で、動乱から逃げアメリカへ亡命してきたラオス人たちを登場人物に据えることで、情報の価値や重みといったものにも別様な見方があることも示されている。
 その結果が、これまで省みられることのなかった種類の記事が脚光を浴び始めるという結末につながっていて、テーマ性およびその構築の仕方という意味では正統かつきれいにまとまった作品だと思う。*1





SFマガジン2011年6月号収載


S-Fマガジン 2011年 06月号 [雑誌]

S-Fマガジン 2011年 06月号 [雑誌]

*1:ただ、「ねじまき少女」でも顕著だったのだけど、この著者はどうも東アジア人を宗教に結び付けて語りたがる傾向があるようで、でも実際は普段からそんなに敬虔に宗教マター(たとえば「カルマ」とか)を意識している人は少ないんじゃないかな……というのをあらためて感じたりもした。






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell